ギャル語で歴史モノを
やったらどうなる?
今月のオススメ本
『マリー・アントワネットの日記』
1770年1月1日。未来のフランス王太子妃は、日記帳に「マリア」という名前を付け、“彼女”だけに誰にも言えない胸の内を綴り出す。〈あたしがフランス王妃とかwww マ? マ? くっそウケるwww ってかんじなんですけど〉。日記ならではの(絵)文字表現も効果的。
吉川トリコ 新潮文庫 Rose 550円/Bleu 590円
ルイ16世の王妃、マリー・アントワネット。高飛車で浪費家のお嬢様というイメージが、この小説を読めば必ず塗り替えられるだろう。なにせ吉川トリコ版のアントワネットは、ギャル語の使い手なのだ。
「小説らしい文章を書いていると、自分の中でかしこまっちゃう感じがしてちょっとイヤだったんです。そこをすっ飛ばすためにも、ツイッターなどで普段自分が使っている言葉で小説を書いてみたかった。でも、普通に現代に生きている女の子の話をギャル語とかで書いても、あんまり面白くない。だったら“ギャル語で歴史モノをやったらどうだろう?”と」
幼少期に『ベルばら』で出会い、ずっと心に残っていた悲劇のヒロインを、現代に生きる自分たちとも通ずる、等身大の人物として描き出す。そのために、自分たちと同じ言葉遣いを採用する。発明的だ。
「資料を読み込んで気づいたんですが、アントワネットは想像以上に現代的な感覚の持ち主だったんです。最近、日本でも女性差別がようやく表立って問題化してきています。アントワネットもいろいろな差別にさらされていたし、“女なら、王妃ならこうしろ”という圧力を受けていた。そんななかで、彼女はずっと抵抗し続けていたんです」
実は、「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」は、彼女が放った言葉ではない。今風にいう「フェイクニュース」であり、大衆心理の暴走による「炎上」によって、ギロチン台へ送り込まれてしまったのだ。
「当時の裁判記録を読むと、理不尽な証言にも動じず、理路整然と反論しているんです。でも、自分の我を丸めてうまいこと迎合すれば、死ぬまではいかなかったかもしれない。それができなかった彼女の不器用さというか、“ありのままの私”であり続けようとした業のようなものも書きたかった」
結果は悲劇に終わってしまったが、彼女の生き様には、現代人も学ぶべきものがふつふつと宿っている。
「夫のルイ16世を、いかにときめける素敵な男性として書こうか、ずっと悩んでいたんです。でも、アントワネットを通して彼のことを見つめるうちに、“弱くてもいいんだ。屈折しているこの人も素敵だ”と、男性に男らしさを求める呪いが解けたんですよ。この小説が書けて良かった、と思った瞬間でした」
今作をきっかけに、「女の子たちを元気づけるようなエンターテイメントが書きたい」という意思が固まったと言う。第2のデビュー作だ。
Column
BOOKS INTERVIEW 本の本音
純文学、エンタテインメント、ノンフィクション、自叙伝、エッセイ……。あの本に込められたメッセージとは?執筆の裏側とは? そして著者の素顔とは? 今、大きな話題を呼んでいる本を書いた本人が、本音を語ります!
2018.09.17(月)
文=吉田大助