「風景」を愛でる私たちの感性は
どう育まれてきたのか?
そこにあるのは、風景画のみ。出品作をなかなか大胆に絞り込んだ展覧会がこちら。東京都美術館での「プーシキン美術館展──旅するフランス風景画」。
風景ばかりを延々と観せられるなんて、ちょっと地味なのでは? そんな心配はご無用。モスクワにあるプーシキン美術館は、充実したフランス絵画コレクションを持つことで知られている。今展にはその収蔵品から、17~20世紀の風景画65点が厳選して運ばれてきた。
主たる出品画家を挙げればクロード・ロラン、ブーシェ、コロー、クールベ、ルノワール、モネ、セザンヌ、ゴーギャン、アンリ・ルソーら。西洋風景画のハイライトを、過不足なく押さえたいいラインアップだ。
ネームバリューだけじゃない。それぞれの作品も、各画家の最高傑作とまではいかぬまでも、佳品揃いで好もしい。
たとえばクールべ《山の小屋》は、「ああ、こういう眺めって見たことある」という実感を誘い、どこか懐かしい気分を連れてきてくれる。
どこまでも細密な描写というわけではないのだけれど、外界を眺めたときの「見えるがまま」が画面に再現されていて、リアル感が半端じゃない。さすがは美術の歴史上、最高度にまで写実を極めた画家。クールべという画家の凄みがわかる一枚だ。
モネによる《草上の昼食》や《陽だまりのライラック》も興味深い。《草上の昼食》は、マネの同名作に刺激を受けて描かれたもの。モネがまだ印象派を創始する前の時期なので、彼の関心は樹木の幹や葉群れの形態を捉えたり、森の広がりをうまく表現することに注がれている。
一方で《陽だまりのライラック》は、いかにも印象派っぽいテイストに満ちた作品。光を浴びた草木や人物が溶け合い、一体化している。
両作の制作年代は数年しか隔たっていないのに、これほどの違いが現れるとは。印象派の登場が絵画表現に及ぼした影響の大きさが窺える。
モネの例に限らず、今展では会場のそこかしこで、風景画の変遷をはっきり見て取ることができる。
単なる主題の背景、つまりは添え物として描かれてきた風景が、独立した絵画の一ジャンルと見なされるようになったのは17世紀のころ。以来画家たちは、遠近法を工夫したり光の調子を整えたり、事物の配置を念入りに考えるなどして、風景画表現の洗練に努めてきた。
今展は、17世紀のロランから20世紀のルソーに至るまでの風景画の変遷を、実作によって確認できるまたとない機会。美の基準とはどう生まれてくるのかを見てとりたい。
『プーシキン美術館展──旅するフランス風景画』
会場 東京都美術館(東京・上野)
会期 2018年4月14日(土)~7月8日(日)
料金 一般 1,600円(税込)ほか
電話番号 03-5777-8600(ハローダイヤル)
http://pushkin2018.jp/
2018.04.23(月)
文=山内宏泰