オリジナルを超える
もう一つの「光の教会」

建築家・安藤忠雄がどのような思想のもと、どんな建築をものにし、今またどこへ行こうとしているかを、約270点余りの品でたどる。約60に及ぶ住宅模型、長年携わってきた直島の巨大模型、アトリエの原寸大再現など、臨場感あふれる展示が展開される。
左:光の教会,1989年,大阪府茨木市 撮影:松岡満男
右:住吉の長屋,1976年,大阪府大阪市 撮影:新建築社 写真部

 「挑戦」とはまさに言い得て妙のタイトルが付いた。日本有数のスケールを誇る国立新美術館で開催中の、安藤忠雄による個展である。

 安藤忠雄が日本の、いや世界の現代建築を代表する存在なのは、誰しも知るところ。展覧会を開くなら、これまでの仕事を網羅し振り返って、どっしりと回顧展をしたって構わない。観る側だって、それでもちろん満足できそうだ。けれど、安藤自身がそれをよしとしない。

 およそ半世紀に及ぶ建築家のキャリアのなかで、安藤が貫いてきたのは、目の前にあるものと常に闘うことだった。どんな案件であれ、場や土地と闘い、クライアントと闘い、己の限界と闘ってきたのだ。環境との調和や顧客満足が重視される建築界の「常識」とは、正反対の姿勢。

 だから個展においても、安藤忠雄は当然のように場や観客、そして己に対して闘いを挑む。今展での最大の挑戦はといえば、過去につくった建築を、1分の1スケールで会場に出現させたことだ。

 大阪府茨木市に建つ《光の教会》は、要素を極限まで削ぎ落とすことで、敬虔な空気を呼び込んだ代表作の一つ。壁面に穿たれた十字状のスリットが、外界の光を内部に導いて、眩い十字架を浮かび上がらせる。

 この建築を実物大で、200坪相当の広さがある野外展示場いっぱいに建ててしまったのだ。素材もオリジナルと同じコンクリートを用いているので、新たにもう一つ《光の教会》を生み出したことになる。

 設計図やスケッチ、現地の写真、よくて模型で構成されるのが通常の建築展。本物と違わぬものを設置してしまうとは、あまりに過剰では?

 なぜそこまでするのかと本人にぶつけてみると、答えは明快だった。

「居心地がいいとか快適だとか、そういうことも大事かもしれませんが、私は『人の魂に残る空間』をつくるのが建築だと考えて、これまでやってきました。展示も同じことですよ。

 新しくつくった光の教会には、オリジナルを超える部分もあります。大阪のほうは、十字の部分にガラスがはめ込まれています。私は入れたくなかったんですが、使う側からすれば寒いから、ガラスをつけてもらわなければ困るという。

 今回つくった光の教会には、もちろんガラスを入れていません。当初の設計通りのものが、ようやく実現したわけです。この例からもわかるように、やっぱり人生、あきらめてはいけないんです。私は一つひとつの建築に、いつもそうしたメッセージを込めているつもりなんですよ」

 安藤忠雄の挑戦に満ちた建築人生を、会場で追体験してみたい。

左:プンタ・デラ・ドガーナ,2009年,ヴェニス/イタリア 撮影:(C)Palazzo Grassi SpA. Foto: ORCH, orsenigo_chemollo
右:挑戦し続ける安藤忠雄。(C)Takako Iimoto

国立新美術館開館10周年
『安藤忠雄展─挑戦─』

会場 国立新美術館(東京・六本木)
会期 2017年9月27日(水)~12月18日(月)
料金 一般1,500円(税込)ほか
電話番号 03-5777-8600(ハローダイヤル)
http://www.tadao-ando.com/exhibition2017

2017.10.28(土)
文=山内宏泰

CREA 2017年11月号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

やっぱり行きたいね、京都。

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やっぱり行きたいね、京都。

定価780円

鴨川べりの散歩道、かくれ家カフェに、しみじみおいしいごはん処――。忙しい日々の中でふと戻りたくなる町、京都。混んでいると聞いて最近少し足が遠のいていた人も、町が赤や黄色に色づく季節だから、久しぶりの京都旅にでかけませんか? 紅葉の隠れ名所に、外れなしのごはんリストなど、盛りだくさんの1冊になりました。