オリジナルを超える
もう一つの「光の教会」
左:光の教会,1989年,大阪府茨木市 撮影:松岡満男
右:住吉の長屋,1976年,大阪府大阪市 撮影:新建築社 写真部
「挑戦」とはまさに言い得て妙のタイトルが付いた。日本有数のスケールを誇る国立新美術館で開催中の、安藤忠雄による個展である。
安藤忠雄が日本の、いや世界の現代建築を代表する存在なのは、誰しも知るところ。展覧会を開くなら、これまでの仕事を網羅し振り返って、どっしりと回顧展をしたって構わない。観る側だって、それでもちろん満足できそうだ。けれど、安藤自身がそれをよしとしない。
およそ半世紀に及ぶ建築家のキャリアのなかで、安藤が貫いてきたのは、目の前にあるものと常に闘うことだった。どんな案件であれ、場や土地と闘い、クライアントと闘い、己の限界と闘ってきたのだ。環境との調和や顧客満足が重視される建築界の「常識」とは、正反対の姿勢。
だから個展においても、安藤忠雄は当然のように場や観客、そして己に対して闘いを挑む。今展での最大の挑戦はといえば、過去につくった建築を、1分の1スケールで会場に出現させたことだ。
大阪府茨木市に建つ《光の教会》は、要素を極限まで削ぎ落とすことで、敬虔な空気を呼び込んだ代表作の一つ。壁面に穿たれた十字状のスリットが、外界の光を内部に導いて、眩い十字架を浮かび上がらせる。
この建築を実物大で、200坪相当の広さがある野外展示場いっぱいに建ててしまったのだ。素材もオリジナルと同じコンクリートを用いているので、新たにもう一つ《光の教会》を生み出したことになる。
設計図やスケッチ、現地の写真、よくて模型で構成されるのが通常の建築展。本物と違わぬものを設置してしまうとは、あまりに過剰では?
なぜそこまでするのかと本人にぶつけてみると、答えは明快だった。
「居心地がいいとか快適だとか、そういうことも大事かもしれませんが、私は『人の魂に残る空間』をつくるのが建築だと考えて、これまでやってきました。展示も同じことですよ。
新しくつくった光の教会には、オリジナルを超える部分もあります。大阪のほうは、十字の部分にガラスがはめ込まれています。私は入れたくなかったんですが、使う側からすれば寒いから、ガラスをつけてもらわなければ困るという。
今回つくった光の教会には、もちろんガラスを入れていません。当初の設計通りのものが、ようやく実現したわけです。この例からもわかるように、やっぱり人生、あきらめてはいけないんです。私は一つひとつの建築に、いつもそうしたメッセージを込めているつもりなんですよ」
安藤忠雄の挑戦に満ちた建築人生を、会場で追体験してみたい。
右:挑戦し続ける安藤忠雄。(C)Takako Iimoto
国立新美術館開館10周年
『安藤忠雄展─挑戦─』
会場 国立新美術館(東京・六本木)
会期 2017年9月27日(水)~12月18日(月)
料金 一般1,500円(税込)ほか
電話番号 03-5777-8600(ハローダイヤル)
http://www.tadao-ando.com/exhibition2017
2017.10.28(土)
文=山内宏泰