テレビドラマやVR作品まで上映

「ある視点」部門で上映された『散歩する侵略者』の、黒沢清、松田龍平、長谷川博己のお三方。タキシード姿にほれぼれ。長谷川さんは1泊2日の強行軍だったらしい。映画は9月9日から公開中。

 なお映画祭側は、来年以降はコンペ作品にはフランスでの劇場公開を義務づけるということにした。これはフランスでは劇場公開作品の場合、映画館保護のための一種の税金を払う必要があったり、配信は公開から3年後、という独自のルールがあることも関係している。

 さらに、70周年記念の特別上映だったものの、25年ぶりに復活したデヴィッド・リンチの『ツイン・ピークス The Return』の第1・2話や、ニコール・キッドマン主演、ジェーン・カンピオン監督のテレビシリーズ『トップ・オブ・ザ・レイク:China Girl』の第1話も、カンヌで一番大きい会場ルミエール・シアターで上映されたし、アレハンドロ・G・イニャリトゥの体験型VR短編『Carne y Arena』も、近くの空港の格納庫を使って上映された。

テレビと言えば、マダムアヤコは今年も閉会式会場からCSムービープラスに生出演をしていたのだが、実は機材はiPad miniのみ! 時間があまり、7分間も台本なしで、日本にいる別所哲也さん相手にしゃべり倒してしまった。

 映画というメディアの多様性を問うと共に、映画は他の映像作品と何が違うのか=映画とは何か、という壮大な問題を突きつけた形になった今年のカンヌだったのだ。

 ポン・ジュノもノア・バームバックもインタビューをした際、「映画館の大画面で観てほしいのはやまやまだが、映画作りに資金は必要だし、Netflixのようにうるさいことを言わずにお金を出してくれるところは少ない」という趣旨のことを言っていた。

デヴィッド・リンチがカンヌ70周年を記念してデザインしたアニエス・ベーのTシャツ(左)を買ってきたら、日本でも売ってた。この後、三井ビルのど自慢でおろしたが、なぜか穴があいてしまった。右は映画祭公式Tシャツ。去年は69ってデカいロゴが入っていた。

 ちなみにカンヌ映画祭は、英語ではCannes Film Festival(正確にはカンヌ国際映画祭=Cannes International Film Festival)だが、フランス語ではFestival de Cannesと表記するのが通常で、これだと、“カンヌのお祭り”という意味しかない。

 Film(映画)とも、Cinema(映画館)とも入っていないんだから、配信でも、劇場公開作でも、どっちでも出来が良ければ構わないのではないか、という気もしたし、映画監督が「これは映画なんです」と言えば映画でいいのではないかと思う。個人的には、ね。

石津文子 (いしづあやこ)
a.k.a. マダムアヤコ。映画評論家。足立区出身。洋画配給会社に勤務後、ニューヨーク大学で映画製作を学ぶ。映画と旅と食を愛し、各地の映画祭を追いかける日々。執筆以外にトークショーや番組出演も。好きな監督は、クリント・イーストウッド、ジョニー・トー、ホン・サンス、ウェス・アンダーソンら。趣味は俳句。長嶋有さん主催の俳句同人「傍点」メンバー。俳号は栗人(クリント)。「もっと笑いを!」がモットー。片岡仁左衛門と新しい地図を好む。