一切合財がオリジナル
いかに自分の感性に近づけていくかが勝負どころ
ずっと気になっていた。
滋賀の山里にも関わらず、日本全国からうまいものを求める者たちで連日にぎわう場所があると。
東麻布天本を取材した時も、その名は出た。店主の天本氏が開業前に修行の場として選び、出汁の取り方をはじめ、さまざまなことを教わったのもその店だったのだ。
寿司店の域を超えた味に、ますます気持ちが高まったのを覚えている。行きたい、行ってみたい。しかし、滋賀は遠い……。
そんなある日、朗報が届いた。
なんと、滋賀の店を閉め、東京に移転してくるというではないか!
オープンは2016年10月6日。その1週間後に我々は訪れた。
 中央通りから一本裏手のビルの地下に店はある。
中央通りから一本裏手のビルの地下に店はある。
銀座2丁目の真新しいビル。エレベーターで地下に降りる。「いらっしゃいませ」とやさしい声。そこに立っていたのは、彼だった。
世のおいしいもの好きを虜にするその男の名は、篠原武将。
 美しいカウンター10席が、彼の新しいステージ。
美しいカウンター10席が、彼の新しいステージ。
コースは23,000円の1本のみ。献立は毎月変えるそうだ。
香煎茶で口の中をすっきりとさせ、料理へと向きあう。まずは活きのいいボタン海老がお目見え。さあ、幕開けはどんなだろう。
 卵の青い色が鮮やか! カウンター割烹ならではのエキサイティングな光景。
卵の青い色が鮮やか! カウンター割烹ならではのエキサイティングな光景。
活けのボタン海老と、寝かしたアカザエビを玉子豆腐の上にのせ、キャビア(オシェトラ)、割り醤油の煮凝りがかけてある。黒いものは水前寺海苔。
それらをスプーンで崩しながらいただく。和のマリアージュ。月兎の器がまたすてき。
 もう、この段階で、カウンター席にいた全員が心を鷲掴みに。
もう、この段階で、カウンター席にいた全員が心を鷲掴みに。
千葉県大原の鮑が登場。
「真空にして蒸しただけ。ほかには何もしていません」
鮑自体から出るスープで、こんなにもやわらかく蒸し上がるとは。
スライスして提供されるその下には、鮑の肝を和えた肝シャリ。一緒に食べるとまた格別。
 滋賀県ならではという甘めのシャリ。鮑に合う。
滋賀県ならではという甘めのシャリ。鮑に合う。
冬瓜と天然の舞茸のお椀。出汁をひとくち。またもカウンターはうっとりとしたため息に包まれる。
天本でも感じたこの出汁の味。篠原の真骨頂である。
 利尻昆布のまろやかさ、鰹の力強さを引き出した出汁。
利尻昆布のまろやかさ、鰹の力強さを引き出した出汁。
滋賀で営んでいた10年の前は、招福楼、山玄茶、たん熊で9年間研鑽を積んできた篠原氏だったが、この出汁のひき方は、それら修行先で教わったものではない。
「うちの出汁は独特だと思いますよ。いま流行りの淡いタイプではなく、基本通りきっちり昆布でうまみを出したところに、2種類の鰹をブレンドしたものを合わせています。昭和の良き時代の出汁をイメージし、そこに自身の感性を加えているんです」
美しい器にお造り。日本酒が進んで仕方ないラインナップが続く。
昆布じめしたヒラメ、スミイカはねっとりとした舌触りでなんともうまい。
 薬味も凝っている。モンゴルの塩、チリ酢。
薬味も凝っている。モンゴルの塩、チリ酢。
熟成させているのか聞くと、そうではなく、細かく包丁を入れているという答えが返ってきた。そう、彼の技術で、なんともいえない食感に仕上げられていたのだ。
滋賀県らしいメニューも登場。藁で皮目をさっと炙った天然の琵琶マス。
 皮と身のあいだの脂がうまい。ほんのりと藁の香り。
皮と身のあいだの脂がうまい。ほんのりと藁の香り。
大間の鮪も出てきた。昆布醤油の煮凝り、辛味大根のおろしが合う。
 皿は、1800年代のバカラ。大間の鮪も、ここで一生を終えられて本望だろう。
皿は、1800年代のバカラ。大間の鮪も、ここで一生を終えられて本望だろう。
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- 文・撮影=Keiko Spice
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