【次に流行るもう一曲】
妄想キャリブレーション「アンバランスアンブレラ」
“楽曲コンペ”の時代は終焉を迎えるか?
伊藤 2曲目は妄想キャリブレーションの2ndシングル「アンバランスアンブレラ」で、女性アイドル2本立て。
山口 今回の選曲はかっとんでますね(笑)。
伊藤 メジャーデビュー後、EDMをコンセプトにエッジの効いた楽曲をリリースしています。1stシングルでサウンドプロデューサーだったDJ'TEKINA//SOMETHINGが2ndでも引き続きサウンドプロデュースを担当。彼は“ゆよゆっぺ”という名前でボカロPとして活躍、自身もアーティストやバンドとして活動をしている26歳。サウンドプロデューサーとしてはBABYMETALで頭角を現した印象ですね。
山口 そうですね。BABYMETALは、グローバルなニッチジャンルであるHR/HMと日本独自のアイドルカルチャーの2つの文脈を掛けあわせたことで、海外でファン層を広げることに成功しました。ビジネス目線で書いたコラム〈外部サイト〉があるので興味のある方は、読んでみてください。メタル愛溢れる細部へのこだわりが成功の一因ということにも触れて、ポジティブに書いたつもりなのですが、気に入らないBABYMETALファンからはネットで随分叩かれました。僕は炎上することが少ないタイプなのですけれどね(笑)。
伊藤 いいじゃないですか、たまには叩かれましょう(笑)。DJ'TEKINA//SOMETHING はDJ、エレクトロ等のダンスミュージックを制作するときの別名義で、BABYMETALの公式リミキサーでもあります。
山口 センスが光るクリエイターですよね。
伊藤 ですね。鈴木まなかもそうですが、アイドルのプロデューサーに若手クリエイターが起用されて、ブランディングに一役買っている感じは興味深い。アイドルのファン層が30代以上のオタク層ばかりではなくなったことも一因だろうけど、多すぎるアイドルグループの生き残りに若手クリエイターの力がしっかりと生かされているということですね。
山口 アイドルというフォーマットは、クリエイターの裁量の範囲が広く、ファンも音楽的な許容量があるので、面白いことに挑戦できるという側面がありますね。
伊藤 こうしてクリエイターが各自のストロングポイントを生かせるようになると“楽曲コンペ”という選曲方法の終焉を感じます。匿名性の高かった不特定多数の職業作家、コンペに勝つために作られた大量の楽曲は必要とされなくなっていく。これからはもっとクリエイターに良い曲、スキル、オリジナリティはもちろん、ブランド、ネームバリュー、スター性までも求められるようになる予感。
山口 15年以上前から、自作自演タイプ以外のアーティストは、大型コンペで何百曲ものデモを集めるというのが日本の音楽業界のパターンになっています。奇跡の名曲を探す、見つからなくてディレクターが悩む、というパターンが多かった気がしますが、ブランドイメージを持つクリエイターが、明確な方向性と高いクリエイティビティを持ってデモを作るという「提案型」が主流になっていく気がします。
伊藤 クリエイターにとってエキサイティングな時代がきますよ!
妄想キャリブレーション「アンバランスアンブレラ」
ソニー・ミュージックレコーズ 2016年9月28日発売
初回生産限定盤[CD+DVD]1,574円、[通常盤]1,204円(税抜)
■妄想キャリブレーションは、胡桃沢まひる、桜野羽咲、双葉苗、星野にぁ、雨宮伊織、水城夢子からなる6人組。2013年に、でんぱ組inc.の拠点としても知られるライブスペース「秋葉原ディアステージ」にて結成された。本作は、メジャーデビュー作となった「ちちんぷいぷい♪」に続く2枚目のシングル。
■「アンバランスアンブレラ」作詞/妄想キャリブレーション、加藤哉子 作曲・編曲/DJ'TEKINA//SOMETHING
http://mosoclbr.com/
Column
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2016.09.13(火)
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