最高賞は英国のあの名匠の作品が獲得
とはいえ、今年もジュリア・ロバーツやジョージ・クルーニーのアマル夫人が初めてカンヌのレッドカーペットに登場したり(なんだかジョージはすっかり脂が抜けきっていた。目の前にいたのに、気づかなかったくらいだよ! 結婚とは、そんなに男を変えるものなのか?)、開幕作品はウディ・アレンだったり、セレブやゴシップ、そしてもちろん面白い映画がたくさんあって楽しめた。
つまんない映画も中にはあるが、それもまた映画祭の醍醐味。自分とまったく違う価値観、文化の中で作られている映画を目にすると、世の中は広いなあ、と実感する。まあ、使い古された表現だけど、まさに『未知との遭遇』、なのだ。スピルバーグも来てたな、そういえば。
今年の最高賞パルムドールを受賞したのは、英国のケン・ローチの『I, Daniel Blake』。心臓病で失業してしまった59歳の職人ダニエルの姿を通して、英国が抱える貧困問題と社会保障システムの矛盾を描きつつ、ユーモアも忘れない素晴らしい映画だった。普通の人が、あっという間にホームレスになってしまうのは、こういうことなのかと思い知らされる。まったく他人事じゃない。
現在、経済問題、移民問題で揺れる英国は、EU離脱か残留かの国民投票が6月23日に控えている。ケン・ローチはEU離脱には反対だと言っていた。ローチにインタビューした際、「どちらも厳しい選択だが、もしEUから離脱したら極右勢力がさらに力を増す。そうしたら弱者はさらに弱者となってしまう。だったらEUに残る方がまだましだ。貧困問題などの状況を変えるためには、民主的な社会主義を目指すべきだ」とはっきり語っていた。
ケン・ローチは2006年の『麦の穂を揺らす風』以来、2度目のパルムドール。その後もほぼ1年置きにカンヌに出品し、2012年には『天使の分け前』で審査員賞も受賞。79歳になってもまったくクオリティを落とさぬ名匠の文句なしの傑作にうなりつつ、新しい才能にも光をあててほしいなあと思いもする。早い話、マダムアヤコの一押しだった映画が無冠に終わったというわけですが。審査員団の評価は意外なもので、この辺の話は次の回に。
右:マッツ・ミケルセンも審査員の一人。とってもお茶目だった。
ちなみにケン・ローチが2012年に審査員賞を受賞した『天使の分け前』はスコットランドなまりがきつく、英語字幕をつけてほしいという声が英語ネイティブからもあがっていた。カンヌでは英語圏の作品にはフランス語字幕が、フランス語作品には英語、それ以外の作品には英語とフランス語の2つの字幕がつく。今回の『I, Daniel Blake』は英国でも最もなまりがきついと言われる北東部ニューキャッスルが舞台だったので、ついに英語字幕もつけられた。おかげで、ちゃんと笑うべきところで、笑えたよ。
2016.06.17(金)
文・撮影=石津文子