「かざり」をキーワードに探る、日本文化の装飾性

「かざり」をキーワードに日本文化の装飾性を探る。伊藤若冲による桝目描き作品のほか、祭礼を華麗に彩る装飾品などが多数展示される。伊藤若冲筆《鳥獣花木図屛風》(右隻)江戸時代 18世紀 エツコ&ジョー・プライスコレクション (展示期間は2016年4月17日まで)

 なるほど美術展とはこうもあり得るのか。そう感嘆したくなるのが、「かざり—信仰と祭りのエネルギー」展だ。

 お目当ての出品作とじっくり対面するのは、展覧会の大きな楽しみのひとつ。が、今展で示されるのはそれだけじゃない。展示全体を通して、ひとつの主張と思想を観る側に手渡してくれる。では、どんな考えが提示されているかといえば、展名にあるように、日本美術は「かざり」を中心に築かれてきたのではないかというもの。

 かざりとは装飾のこと。何らかの本体があって、それを彩りよく見せるのが装飾の役割と、ふつうは考えられる。つまりは二次的な存在。美術の世界でも装飾美術とは、本格的な作品よりも一段低いものと考えられがちだ。偉大な芸術とは強い個性を有する個人が、創造性を発揮して崇高な人間精神や雄大な歴史を表すものであって、情趣をプラスする装飾なんて添え物に過ぎない、と。

伊藤若冲筆《鳥獣花木図屛風》(左隻) 江戸時代 18世紀 エツコ&ジョー・プライスコレクション (展示期間は2016年4月17日まで)

 でも、日本美術の歴史をたどり直してみれば、じつはかざり=装飾にこそ重きが置かれてきたのは明らかだ。たとえば時代を遡って、縄文土器を思い浮かべてみる。燃え盛る炎にそのまま形を与えたような器や、宇宙人さながらの土偶には、全体のバランスが崩れることなどおかまいなしに、これでもかと装飾が盛られている。かざること自体が目的であり楽しみなのだと言わんばかり。

 そこから時代を経ても、琳派と称される俵屋宗達、尾形光琳、酒井抱一らの絵画は、何を描くかよりも画面をどう彩るかに趣向が凝らされていて、デザイン画と呼んでいいほど。江戸時代に隆盛を見た浮世絵の大仰な表現しかり、神事や祭りに用いられた道具類や、戦国武将が頭に載せた飾り兜と呼ばれるヘンテコな形の武具しかり。構造、構成、思想、技術、伝統などを誇るよりも、見た目をいかにかざるかに、関心は向いていた。

《舞楽面 蘭陵王》 桃山時代 四天王寺 (展示期間は2016年5月15日まで)

 今展は、日本の美術・文化のそんな特質を浮き彫りにするべく、華やかな日本の意匠を集めてきた。館の地元・滋賀県に伝わる水口曳山祭、大津祭などを彩る曳山懸装品の数々は、細部まで手が込んでいて、かざりに懸ける作り手の情熱が伝わる。洛中洛外図屛風や大涅槃図も、画面をどこまでもきらびやかにせんとする一途な思いが溢れ出てきそう。さらには、昨今この上ない人気を誇る伊藤若冲の大作《鳥獣花木図屛風》が圧巻。桝目描きと呼ばれる技法で動物や草花を隅々にまで配置した絵画は、装飾性の極北を示している。

 遊びを、ならぬ「かざりをせんとや生まれけむ」とでも言いたくなる、日本人の装飾への情熱や恐るべし。とはいえ、難しく考える必要なんてなし。絢爛豪華な雑貨店を覗くような感覚で観て回れる展示だ。

2016年春季特別展
『かざり─信仰と祭りのエネルギー』

会場 MIHO MUSEUM (滋賀・信楽町)
会期 2016年3月1日(火)~5月15日(日)
料金 一般1,100円(税込)ほか
電話番号 0748-82-3411
URL http://miho.jp/

2016.04.25(月)
文=山内宏泰

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