メガシティ・渋谷を見下ろしながら焼きたてのカステラでほっこり
茶庭 然花抄院(東京・渋谷)
甘味:然ノ膳、香り抹茶丸、抹茶浮図
2009年に京都でスタートした「然花抄院」(ぜんかしょういん)は、「花も、菓も、然るべき姿へ」をコンセプトとする和菓子ブランド。「花ある心でお客様をもてなし、そして菓子本来の味を楽しんでいただきたい」という想いが込められているそうです。
その甘味を店内で楽しめる東京で唯一の和カフェが、2012年にオープンした「茶庭 然花抄院」(さてい ぜんかしょういん)。午前中に訪れれば店内に併設された工房から何やら音が聞こえてきますが、これは焼きたての「『然』かすてら」の仕上げに欠かせない作業工程の音なのだとか。作業の具体的な内容は企業秘密ですが、できたてホヤホヤのカステラが食べられると思うと、それだけで嬉しくなってきます。
看板菓子の「『然』かすてら」は、表面はふんわり香ばしく中はとろりとした、紙焼きのカステラ。そのしっとり度は、フォークを入れると生地がフォークにまとわりつくほどです。店長によると、毎日中心部のとろとろの食感を一定に焼き上げるため、その日のお天気に応じて火加減を微調整しているのだとか。濃厚なカスタードクリームのような風味があるのは、丹波黒豆を食べて京都で育った鶏の卵の黄身だけを使っているため。
地下2階のショップ「然花抄院」で販売されているカステラはこの他に常時3種類以上あり、材料の卵や小麦粉はそれぞれにベストなものを選んで使い分けているそうです。
喫茶の人気メニュー「然ノ膳」は、ケーキのように放射状に切られた「『然』かすてら」に、山椒と昆布の佃煮「玉しぐれ」と、「『然』かすてら」の生地を薄く伸ばして焼いた勾玉型のボウロ「室町傍瑠」を添えたもの。カステラの甘さと「玉しぐれ」の塩気が、絶妙なバランスです。
ところで、そもそもカステラやボウロは和菓子なのか? という疑問がありますが、どちらも原型はポルトガルから伝わった南蛮菓子。カステラという名前の由来は、スペインのカスティーリャ地方のポルトガル語訛りである「カステーラ」だというのが一般的です。16世紀に長崎に伝来したカステラは、江戸時代の料理書に製法が掲載され、茶会で使われたという記録もあるほど。
一方、ポルトガル語で「ケーキ」を意味するボウロは、17世紀に伝来した後、日本の小麦粉の質に合わせて製法が変化し、日本独自のお菓子になったとか。どちらもすでに何世紀も日本で愛されているのですから、立派な和菓子といえそうです。
2016.04.14(木)
文・撮影=小松めぐみ