『西洋菓子店プティ・フール』が結んだ絆
スイーツ小説から生まれた新たな「デセールプレート」がある。
スイーツ激戦区、世田谷・尾山台に新店「パティスリィ アサコ イワヤナギ(PÂTISSERIE ASAKO IWAYANAGI)」をオープンさせた人気パティシエールの岩柳麻子さんが、千早茜さんの新刊小説に出会って“創作菓子”を完成させた――。
その小説とは、下町の老舗洋菓子店を舞台にした『西洋菓子店プティ・フール』だ。
今作の主人公はフランスへの留学経験があるパティシエール、亜樹。下町の洋菓子店を舞台に、恋人の祐介とのすれ違いや夫の浮気に悩む主婦らの日常が描かれている。全6篇にはグロゼイユ(赤スグリ)、ヴァニーユ(バニラ)というタイトルのもと、異なる味のドラマが詰まっている。
「今作のテーマは片思い。この気持ちは酸っぱいだけじゃなくて、甘かったり、苦かったりすることもあるだろうし、いろんな人の片思いの味を描きました」(千早さん)
小説の刊行を記念して、千早さんと岩柳さんが雑誌「オール讀物」4月号の企画で対談。
岩柳さんは、小説を読んでいて、正確な描写にうならされたという。
「パータ・ボンブ(卵黄と砂糖水で作る、ふんわりと泡立てたクリーム)に使うシロップの温度が115度とか108度と書いてあったりして、千早さんは絶対にパティスリー修行をされた方だと思いました。私自身も有名な製菓学校で技術を学んだわけではないので、すごくよくわかって、感情移入できました」(岩城さん)
執筆にあたり、千早さんは、ケーキの本を何十冊も読みこんだという。
「レシピ本、調理を科学的に解説する本、歴史や由来を教えてくれる本。それをじいちゃんだったら、このシェフの方式、亜樹ちゃんだったらこのシェフの方式と、書き分けていきました」(千早さん)
取材のため、女性編集者とスイーツを食べ歩いた千早さんは、こう振り返る。
「美味しいケーキを食べた瞬間の女性の気持ちの高まりって、すごいんですよ。ファーって、なんかもう、薔薇色の不思議な物質がそこらじゅうから出ているんです(笑)」(千早さん)
2016.04.08(金)
撮影=深野未季