驚くことにそれは、旅をすることに似ていた。直感力や決断力、ある意味での鈍感力も必要だった。家具はアンティークのものを中心に、少しずつ集めている途中。インドの手織り絨毯やポルトガル製のカーテン、フィンランドの仕事用デスク。寝室には、アメリカのモーテルをイメージしたランプを取り付けた。これまで触れてきたものが、いつの間にか自分の中に蓄積されていたようだ。気がつくといつも、訪れたことのある場所のものを手に取っていた。国や時代の違うものをあえて混在させることで、空間に奥行きが出ることも知った。

儚い生の中で、何をしたいか?

 今の私は、砂漠も遺跡も、火山も氷河も、サバンナで生きる動物達も、すぐ近くに感じることができる。慌ただしい日常と並行して、別の場所で別の時間が流れていることを知っている。

 旅の中で何かを見つけるだけではなく、旅をしなくても世界を見つめることができる。地球という星で暮らしているという実感が強くなり、怖いものがなくなった。「四十にして惑わず」とは、このことだったのか。ひとり家で過ごしていても、寂しいと思うことはない。むしろ心が満たされていく……。

 人生というのは、本当に短い。朝が来たと思ったら、あっという間に日が暮れて、せいぜい1世紀しか生きられない。そんな儚い生の中で、何をしたいか? 私は、自分なりのやり方でこの世界を感じて、できればそれを伝えていきたい。ようやく、そんな気持ちに素直に向き合うことができた。

 窓の外、遠くの方に桜の花が咲いているのが見えた。東京にまた春がやって来た。

「あと何度、この桜を見られるのだろう?」

 そんなことを考えたのは、生まれて初めてだった。いよいよ、人生の後半戦が始まる。面白くなるのは、きっとこれからだ。

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