スタイル画はペンではなく筆で

近田 ペンじゃなくて、筆でお描きになるのが、コシノさんのスタイル画の一つの特色ですよね。

コシノ ええ。筆で描くと、スタイル画自体が、独立した作品のように成り立つんです。若い時分に徹底的にスタイル画を極めたのが、今の自分の糧になっていますね。

近田 結局、下井草の下宿からはいつ引っ越したんですか。

コシノ 入居してから半年後です。実は、その向かいにとある男子寮があったんですが、その一番端の部屋にいた子がものすごい男前で、彼の姿を眺めたいがために、胃の痛みをこらえながら、6カ月ほどつらい下宿暮らしを続けました(笑)。

近田 よく我慢しましたね(笑)。

コシノ その後は、できるだけ親に頼らず、自分の力で生きていこうと思いました。そうそう、うちのお母ちゃん、しょっちゅう仕送りを忘れてたんですよ。

近田 そりゃ困りますね。

コシノ 1カ月以上お金が届かず、もう食べるものもないとなった時、どうしたかというと、街を歩いて、その辺に転がっているお酒の瓶を拾い、酒屋さんに持って行ってお金に換え、電話代を稼いだわけですよ。

近田 最近じゃすっかり廃れちゃった習慣だけど、昔は、よく酒瓶を返しに行ったものですよね。

コシノ そのお金で「お母ちゃん、早くお金送ってえ」と電話をかける。そしたら、「えっ、あんたそんな生活してんのか。仕送り忘れてたわ」だって。

近田 ひどい(笑)。

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コシノヒロコ(こしの・ひろこ)

1937年、大阪府岸和田市生まれ。文化服装学院在学中に日本デザイナー協会デザインコンクールで1位を受賞。1960年に自身のブランドを設立し、1964年には大阪・心斎橋にオートクチュール・アトリエを開設する。1978年には日本人として初めてローマのアルタ・モーダに参加し、その後、パリ、上海など世界各地でコレクションを発表。1997年には毎日ファッション大賞、2001年には大阪芸術賞を受賞。「HIROKO KOSHINO」など複数のブランドのデザインを手がける他、近年ではアーティストとしての活動にも注力し、国内外での個展を多数開催。三味線や邦楽の演奏をはじめ、絵画、墨絵、陶芸など多彩な表現活動を継続している。

近田春夫(ちかだ・はるお)

1951年東京都世田谷区出身。慶應義塾大学文学部中退。75年に近田春夫&ハルヲフォンとしてデビュー。その後、ロック、ヒップホップ、トランスなど、最先端のジャンルで創作を続ける。文筆家としては、「週刊文春」誌上でJポップ時評「考えるヒット」を24年にわたって連載した。著書に、『調子悪くてあたりまえ 近田春夫自伝』(リトルモア)、『筒美京平 大ヒットメーカーの秘密』『グループサウンズ』(文春新書)などがある。最新刊は、半世紀を超えるキャリアを総覧する『未体験白書』(シンコーミュージック・エンタテイメント)。
X @ChikadaHaruo

(UN)KNOWN HIROKO KOSHINO ―新説/真説 コシノヒロコ―

開催時期:2026年5月26日(火)~7月26日(日)
開催場所:東京都現代美術館 企画展示室B2
開館時間:10:00~18:00(入場は閉館の30分前まで)
休館日:月曜(7月20日は開館)、7月21日
観覧料:大人2,200円
https://hirokokoshino.com/unknown/

次の記事に続く コシノヒロコ(89)が語る、アルマーニも衝撃を受けた“...