最晩年の苦悩を秘めた無限の瞑想空間
展示室がモネの生前に完成しなかったことが惜しまれる、と、私たちは思う。だが、それは見当違いで、モネ自身、生きている間に作品を衆目に触れさせたくなかったのだという。
晩年のモネは白内障を患い、色彩感覚に異常をきたす深刻な視力障害に苦しんでいた。納得のいかない作品を容赦なく破壊していたというモネ。その苦悩を熟知していたクレマンソーは手術を受けることを強く勧めた。完全に光を失ってしまうかもしれない手術への恐怖を圧して、モネが親友の助言に応じたのが1923年のこと。その数カ月後、彼は再び絵を描き始めた。
こんな話もある。1926年12月のモネの葬儀で、クレマンソーは棺を覆っていた黒い布を引き剥がし、花柄の布で覆い直してこう言った。
「モネに黒はふさわしくない」
この空間をモネ自身が見ることはなかったが、すべては彼自身が長い思索を重ねて構想したもの。楕円形を二つ連ねた展示室の形は“無限”を象徴している。最期まで光と向き合い、終わりなき格闘を続けた画家の結晶。空と水、あらゆる形が溶け合う光景は決して他所に移動することはない、ここでしか出合えないものだ。
ところで、オランジュリー美術館の見どころは、実はこれでは終わらない。地下には、ポール・ギヨームとジャン・ヴァルテールの大コレクションが常設展示されている。
ピカソ、マティス、モディリアーニ、マリー・ローランサンなど、モネの後に続く巨匠たちの珠玉の名品の数々が待っている。
Musée de l'Orangerie(オランジュリー美術館)
所在地 Jardin des Tuileries, Place de la Concorde (côté Seine), Paris
電話番号 01 44 50 43 00
営業時間 9:00~18:00
定休日 火曜
料金 12.50ユーロ(オンライン)、11ユーロ(窓口)※事前オンライン予約がおすすめ。
https://www.musee-orangerie.fr/fr
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