ひとりで子どもを見ていることが孤独すぎた

――夫も無事で、子どももいて、家もあるけれど気持ちが社会から孤立してゆく。「ああ! 今日もひとりだ」という心の叫びが忘れられません。

アベ ひとりぼっちで家にいなければいけないのもつらくて。「子どもを外に出すな」というメールが来るんですよ、主に首都圏にいる知り合いから。放射能に関していろんな情報が飛び交っていましたよね。そのときは「何年後かに子どもに何かあったら私の責任だ」と思って。外に出られない、役に立てない、ひとりで子どもを見ていることが孤独すぎて、逃げ場がなくて。メンタルが崩れていくような感じでした。子どもと一緒、「ふたり」のはずなのに「ひとり」という思いが強まってもいました。

――そしてお子さんは1歳7カ月、理屈が通じる年齢じゃなくて。

アベ 毎日「すべり台、すべり台!」とせがまれてました(笑)。もう少し大きかったら違ったかもですし、あるいはゼロ歳児だったら日々の世話だけやっていればよかったんですけどね。子どもは子どもで、いつもと違う生活にすごくストレスだったと思います。

――夫さんは基本、毎日会社に行かれていたのですか。

アベ はい、夫の会社は全国展開してる会社で、その本社に勤めていたんです。失われた本社機能をいち早く復旧しなきゃいけない、だから毎日泥かきにいって(※会社は県沿岸部にあり、津波の被害を受けた。タイミングが悪かったら夫さんも津波にのまれていた可能性があった、とアベさんは教えてくれた)。「自分が頑張らないと家の収入が途絶えてしまう」という責任感もあったと思います。私が全然売れてないイラストレーターだったこともあり(笑)。

――きょうも働きに出ようとする夫に、アベさんが「キレる」くだりが忘れられません。そのときの夫さん、そしてお子さんの応対はこの本でも忘れられないエピソードのひとつですね。

アベ ずっとモヤモヤしていたことがやっと言えた! という感じでした。

――震災からずっと不安で、先の見通しも立たない日々。感情が蓄積して、爆発するまでどのくらいの時間が経ったんだろう……と思ったら、ページ右上に日にちがデザインで入れられていて、「分かりやすい!」と思いました。震災からちょうど1週間。

アベ 本には描かなかったんですが、郵便がはじめて届いたのもちょうどその頃だったんです。それがクレジットカードの明細だったんですよ。こんなときにも届くんだな、って(笑)。これを払わなくちゃ、家賃と光熱費も払わなくちゃいけない、という不安も重なって。だから夫には仕事を頑張ってもらわなきゃいけないんだけど、私はひとりでさびしいという思いもありました。その頃が食糧事情も一番ひどくて、並んでもなかなか買えない。メンタル的にも肉体的にも最もつらいのがその日だったのかもしれません。

――そういう状況がよくなって、収入がある、水が、食料が手に入ると今度は「ちゃんと感謝しなければ」という思いが生まれて、一種の枷(かせ)にもなる。こういう心の過程を経験された方は多かったでしょうね。

アベ 命があることに感謝しなきゃいけない、と思いました。宮城県って「地震慣れ」してる人が多いんですよ。

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