避難所生活を経験していない“中間被災者”が感じていたこと
――たしかに被災者ではあるけれど、津波に遭ったわけではない、家が流されたわけではない、自宅で生活できた私が震災を伝えるのは……という思いがアベさんにはあったそうですね。
アベ 申し訳ない、という思いがあります。自分たちには帰る家があり、布団で寝られて、家族と過ごせていた。うちから山ひとつ越えた地域は津波に遭われて、亡くなっている人がたくさんいる。私の被災なんて、被災のうちに入らない……と思うことは本当に多かったです。
本に描きましたが、私は震災発生時、周囲に大きな建物もなく、車の中にいた。これ、最も安全な状況と言えるんです。そして外だったから「靴を履いていた」のもよかったんです。
――靴に割れたガラスが入り、「履きなれた靴で外に出られなくて困った」人が多かったと聞きますね。本当に、どういうことで困るかは実際の話を聞かないと分からない。本作を描かれている間、当時を思い出して、つらさがフラッシュバックすることもあったのではないですか。
アベ 毎年、3月が近づくと気持ちは2011年に戻されます。この本ではくわしく描いていませんが、見たことない数のヘリコプターが飛ぶんです。きっかり朝の9時から夕方5時ごろまで。亡くなられた人を安置所に運んでいく。2~3日で終わるかと思ったらずっと続いて。1機、1機の中のご遺体にそれぞれの人生があって、いきなり人生を奪われるってどんなに……と思いながらヘリコプターを見ていたあの日に毎年、気持ちが戻りますね。
このインタビューの後、あらためて「今日、地震がおきたら」を読み返してみたら話のあちこちに、小さくヘリコプターが描き込まれていることに気づいた。読み飛ばしていた迂闊さを思うと同時に、あえていちいち何かを説明しなかったアベさんの思いを感じて、心が粛然とした。
アベナオミ
漫画家、イラストレーター、防災士。宮城県多賀城市出身。現在も夫、三人の子と共に県内で暮らす。コミックエッセイを精力的に発表すると同時に、防災や育児に関する講演活動も全国で行っている。近著に『最新版 マンガでわかる! 「天気痛」のやわらげ方』(佐藤純氏との共著、小学館クリエイティブ)がある。
https://illustrator-abe-naomi.blog.jp/
聞き手 白央篤司(はくおう・あつし)
フードライター、コラムニスト。「暮らしと食」をテーマに執筆する。主な著書に『自炊力』(光文社新書)、『台所をひらく』(大和書房)、『はじめての胃もたれ』(太田出版)など。旅、酒、古い映画好き。
https://note.com/hakuo416/n/n77eec2eecddd

今日、地震がおきたら
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