iPhoneに残っていた当時の日記メモをきっかけにマンガ化が決定
――メモ書き的な日記として、震災当時の思いが淡々とつづられていますね。
アベ 担当編集さんがそれを読んで、「こんな毎日が続いていくのか、というのが切々と迫ってきた。これをマンガにしましょう、アベさん個人の体験を」と言ってくれて。そこにいた人しか分からない空気感やにおいを描けるのはアベさんだから、と後押ししてくれて。
――におい、ですか。それは実際的な意味というか、あるいは雰囲気?
アベ 両方ですね。なんともいえないにおいが漂っていた時期がありました。まずトイレも流れませんし、川を遡上してきたヘドロのにおいもある。津波って、いろんなものを連れてくるんですよ。家電もあれば、漁港から流れてきたらしき丸々とした大きなカツオなども。腐敗して、だんだんハエがものすごくたかるようにもなる。また、だんだん被災ごみがあちこちで積み上がっていき、木材の家具などは雨ざらしなのでこれも腐敗してきて。運搬されてくる被災ごみをためる場所があったんですが、一時は4階建ての建物より高いぐらいの量でした。
――作品内でも描かれますが、お風呂にも入れなかったわけですよね。体臭の問題もある……。当時の生活が日記的に描かれるので、「こういうとき、何を用意しておくべきか」「何が足りなくなりやすいか」が想像しやすい。水や電気がもったいないから、ヒゲもロクに剃れないというのにはなるほど、と。ヒゲ面の男性が「怖い」と思われたくだり、印象的です。
アベ 男性がみんな、ヒゲがのびた状態で外を歩いてる。普段見ない光景ですから正直、「怖い」と感じてしまって。
――身なりを整えるのもむずかしい状況で、髪だって洗えず、セットもできず。それが「普通」になっていく。
アベ 言葉を選ばず言うと、不審者的にも見えてしまったんですよ。ヒゲといえば、役場の人たちはあえてヒゲを剃らないようにしていたと後で聞きました。「ヒゲを剃る暇があるのか」「風呂にいつ入ったんだ」と被災者からとがめられるから、と。
――役場の方たちもまた被災者でしょうにね……。
アベ みんな生きるので精一杯で、殺気立ってもいました。作品内では描いていませんが、大人同士の殴り合いを当時はじめて見て。スーパーでよくあったんです、「横入りするな!」とか。「きょう買って帰れないともううちには食料がないんだ!」なんて、みんなそれぞれに思いがあって。
