2016年は日本で磁器が誕生して400年。安土桃山時代に朝鮮半島からわたってきた陶工技術者のひとり李参平が、佐賀県有田町で磁石場を発見し、磁器を焼いたのが1616年のことだ。有田焼の歴史はここからはじまる。17世紀後半にはヨーロッパに輸出されるようになり、真っ白な磁肌と鮮やかな色絵は王侯貴族たちの心をおおいに魅了した。そして400年の時を経て今、有田焼は新しい時代を歩んでいる。

 いつの時代も、技術を受け継ぎ歴史を刻むのは「人」だ。有田の地で窯を守り有田焼の未来を背負った、次世代の若きクリエイターをフィーチャーする。

◆ 今村製陶

今村製陶の今村肇さん、麻希さん夫妻。センスの良いディスプレイは、インテリアのお手本にしたくなる。

 ものづくりに関わる人の顔が見えると、もの自体がぐっと身近に感じられる。とくに同時代を生きている人々の活躍は気になるし、目が離せなくなる。

 昔ながらの町屋の扉をくぐると、そこに懐かしくも新しくて落ち着く場所が開けた。今村製陶は、有田で350年続く陶悦(とうえつ)窯13代・今村博さんの次男である今村肇さんが、妻の麻希さんと一緒に開いた新しい窯元。「自分たちの生活にリアルな器を作りたい」という思いからデザイナーの大治将典さんとともに立ち上げたブランド「JICON・磁今」は、仏教用語「爾今=今を生きる」に由来する。

豆皿としても使える箸置き。左から剣(つるぎ)、沢瀉(おもだか)、二葉(ふたば)といった伝統的なモチーフがかえって新鮮。

 モダンでお洒落なデザインで人気の器は、一般にはグレードが高くないとされる陶土をあえて使い、通常より低い温度で焼成したあたたかみのある生成り色が持ち味。色も絵ものせず、造形の美しさで勝負しているのも、有田焼の常識とは離れているように感じられる。

昔ながらの町屋を改装した直営店。麻希さんが店頭に立ち、訪ねてくる人との触れ合いも大切にしている。

「でも、新しいことをやっている感覚はありません。有田焼の歴史をリスペクトしながら、昔ながらの伝統をチューニングしなおしているだけ。すべて父親がやってきたことだな、と感じます。伝統は守り続けると退化してしまう。少しずつでも進歩を積み重ねて、それが100年経って伝統と言われるようになったら何より嬉しいんです」

今村製陶(いまむらせいとう)
電話番号 0955-43-4363
URL http://www.jicon.jp/

●直営店「今村製陶 町屋」
営業時間 10:00~17:00
定休日 不定休

2016.03.18(金)
取材・文=嵯峨崎文香
撮影=山元茂樹