自分たちの頭で考えて行動する人々
ブータンでは生き物を殺生しないので、そこらじゅうに犬がゴロゴロいます。どの犬も首輪もせず、勝手気まま。野良犬というよりはコミュニティー犬として、人々がかわいがり、えさをやり、共に暮らしています。増えすぎないように、最近は一度保護して去勢手術や予防注射を行い、耳の一部をカットしてあるそうです。
道路にもたくさんの犬が歩いたり寝ていたりするので、最初は犬好きの私はハラハラしっぱなしでした。でも車はゆっくり犬を避けて走ります。あるいは歩き終わるのをじっと待ちます。人々にとって生き物は飛び出してくるのが当たり前のものと思っているので、誰も速い速度で運転していないし、常に周りを見ています。
ブータンには信号がありません。車が多い首都のティンプーでさえ、交差点で警察官が交通整理をしているだけ。それでもみんなが周りを気にかけているから事故にならないんです。
エアコンや信号、そんなもの最初からなければ、自分たちの頭で考えて行動していくんですね。
私も「今まで使っていたから」とか「今まではこうやってきた」という思い込みを捨て、「誰もが持っているから」なんて他人との比較をせず、自分が幸せだなあと思えるミニマルな暮らしを目指していきたいなと思いました。
松尾たいこ(まつお・たいこ)
アーティスト/イラストレーター。広島県呉市生まれ。1995年、11年間勤めた地元の自動車会社を辞め32歳で上京。セツ・モードセミナーに入学、1998年からイラストレーターに転身。これまで300冊近い本の表紙イラストを担当。著作に、江國香織との共著『ふりむく』、角田光代との共著『Presents』『なくしたものたちの国』など。2013年には初エッセイ『東京おとな日和』を出し、ファッションやインテリア、そのライフスタイル全般にファンが広がる。2014年からは福井にて「千年陶画」プロジェクトスタート。現在、東京・軽井沢・福井の三拠点生活中。夫はジャーナリストの佐々木俊尚。公式サイト http://taikomatsuo.jimdo.com/
Column
松尾たいこの三拠点ミニマルライフ
一カ月に三都市を移動、旅するように暮らすイラストレーターの松尾たいこさんがマルチハビテーション(多拠点生活)の楽しみをつづります。
2016.01.30(土)
文・撮影=松尾たいこ