家に求めるものがかなり変わってきた
実際に三拠点生活をはじめるとなると、東京では月の半分ぐらいしか暮らさないことになるでしょうから、この家は広すぎます。それぞれの仕事部屋と寝室、そしてリビングがあればいいので、3LDKで十分。暮らし方もシンプルにして、モノももっと減らしたい。健康になったことで行動範囲が広がり、「すぐに出かけることができる場所に暮らしたい」「周りにたくさんお店があると楽しいのに」という気持ちも強くなってきました。福井に拠点を増やすという考えがきっかけとなり、自分たちの家に求めるものがかなり変わっていることに気づいたのです。
そう決めたら行動に移すのはすぐでした。2014年12月上旬に物件を探し始め、1週間で決めて2015年1月に引っ越しました。私たちは、じっくり探すというタイプではなくて、ほどほどに気に入ったらいいかなという考えです。賃貸なので、完璧に自分の好みに合う家を見つけるなんて無理だと、その辺りは割り切っています。せっかくだからまだ住んだことがなくて、仕事の打ち合わせなどで動きやすい場所がいいなと、たしか3つ目に見た、代々木上原の物件に決めました。
引っ越しに向けて荷物を梱包していくと、段ボールの山を見て、あらためて持ち物の多さを実感しました。一番捨てられない洋服も、この時点で1/3は処分。新居は、広さが1/2ぐらいなので、家具などもかなり減らし、粗大ゴミ代が相当かかってしまいました。でも引っ越しって断捨離にはもってこいですね。
いまの家は、マンションと言っていいのかちょっとわからないのですが、1階に大家さんが住んでいてその2階をお借りしています。そういう物件は初めてだったので、気詰まりかな? って思っていましたが、大家さんが植物をとても愛している方で、建物の周りには季節ごとの緑や花が咲き乱れていて楽しませてもらっています。駅から徒歩5分なので、思い立ったらすぐに美術展や映画館に出かける気になります。いくつかの、小さな居心地のいいレストランやショップも見つけました。
家に求めるものが変わって実際に引っ越したことで、自分がとても行動的になったことが嬉しいし、新しい刺激と出会いが日々あって、楽しいです。
松尾たいこ(まつお・たいこ)
アーティスト/イラストレーター。広島県呉市生まれ。1995年、11年間勤めた地元の自動車会社を辞め32歳で上京。セツ・モード・セミナーに入学、1998年からイラストレーターに転身。これまで300冊近い本の表紙イラストを担当。著作に、江國香織との共著『ふりむく』、角田光代との共著『Presents』『なくしたものたちの国』など。2013年には初エッセイ『東京おとな日和』を出し、ファッションやインテリア、そのライフスタイル全般にファンが広がる。2014年からは福井にて「千年陶画」プロジェクトスタート。現在、東京・軽井沢・福井の三拠点生活中。夫はジャーナリストの佐々木俊尚。公式サイト http://taikomatsuo.jimdo.com/
Column
松尾たいこの三拠点ミニマルライフ
一カ月に三都市を移動、旅するように暮らすイラストレーターの松尾たいこさんがマルチハビテーション(多拠点生活)の楽しみをつづります。
2015.11.14(土)
文・撮影=松尾たいこ