星野リゾート 界 出雲(後篇)
ほっとするような落ち着いた時間、いつもと違う非日常の過ごし方ができる日本旅館に泊まる旅「旅館道」。「和心地」な温泉旅館をコンセプトとする星野リゾートの「界」と「現代を休む日」をコンセプトにした和のリゾート「星のや」を巡るこのコラムでは、温泉を備えた旅館を味わい、その土地ならではの文化や自然の魅力など日本を再発見する旅をします。
今回は、島根県出雲の地にある「星野リゾート 界 出雲」で、舞楽を見ながら日本の古代に思いを馳せる旅をご紹介します。
ご当地のお楽しみ その1
「舞楽を楽しみ、神話に彩られた世界に浸る」
出雲の地は古事記や日本書紀に登場する神話の舞台。アマテラスオオミカミの弟神だが粗暴で高天原を追放されたスサノオが、この地に降り立ち、怪物ヤマタノオロチからクシナダヒメを救った話や、出雲大社の祭神であり国造りと国譲りを行ったオオクニヌシノミコトが因幡の白兎を助けた話など、昔に聞いた話が何となく身近に感じられる場所である。玉造温泉の宿が並ぶ玉湯川沿いには、そんな神話の世界を描いたモニュメントが並ぶ。
「星野リゾート 界 出雲」は、深い緑を背後に、玉湯川に面した黒塀の奥に立つ、全24室の静かな宿だ。竹の庭を囲む四角の建物になっており、ロビーからは弧を描く赤い太鼓橋を渡って、客室に向かう。橋の弧にあわせて湾曲した窓から日本庭園を両側に望み、ちょっと神の国に渡るような心地だ。
そんなちょっと神秘的な気を感じる宿で、秋の夜長の楽しみとして催されるのがスタッフによる「蘭陵王」という舞楽。
2015年10月21日(水)、11月4日(水)、16日(月)には、雅楽の生演奏も行なわれ、笙やひちりき、笛などの荘厳な音に合わせて舞われるという。竜頭の面と朱の華やかな衣装を身に着け、手には剣を持ってゆったりと大きな動きで始まる舞は終盤に向かうにつれて盛り上がっていく。なかなか見る機会がない古典舞踊を目の当たりにするという贅沢な時間だ。
また、秋の夜には、竹庭にて舞楽を観た後に、ぜんざいとほうじ茶が供される。ぜんざいは、神在祭で振る舞われた神在餅(じんざいもち)が起こりで元は出雲のものだという。一日の最後に、神代の昔からの優しい甘さのぜんざいにほっこりとする。
2015.10.18(日)
文=小野アムスデン道子
撮影=山元茂樹