なんて壮大で美しいマンダラ!

空が少しずつ明るくなってきた。大勢の人々が夜明けを待っていた。

 「アマンジウォ」に滞在するゲストの、ほぼ100パーセントが目指すのはボロブドゥール遺跡。リゾートから遺跡までは車で15分ほど。客室ごとに1台の専用車で出かけて行く。夜明け前に出かけて、明るくなってから遺跡を観光して戻ってくるというのが一般的なスケジュール。ということで、集合時間は朝4時だ!

 まだ真っ暗な中、目覚まし時計が鳴った。時刻は3時半。朝と呼んでいいのかどうか微妙な時間帯だ。眠気覚ましにシャワーを浴びて身支度をした。メイン棟に行くと、ジュースやコーヒーと、パンなどの軽食が用意されていた。それらを軽くいただき、車へ。遺跡の入り口に着いても、あたりはまだ真っ暗だ。ガイドさんが持っている懐中電灯の明かりを頼りに遺跡へと歩を進めた。

方形段台の上に載っている円壇は3層。大ストゥーパを中心に72基のストゥーパが並ぶ。円壇の下の段には、東西南北に1基ずつ、中の仏像が見えるようにカバーを外したストゥーパがある。

 1991年にユネスコの世界遺産に登録されたボロブドゥール遺跡は、2013年に、世界でもっとも大きな寺院建造物(ひとつの建物)としてギネスブックにも掲載されている。8~9世紀頃に造られたとされているが、詳しいことは分かっていない。

 一辺が120メートルの正方形をした基壇の上に、6層の方形段台があり、その上に3層の円壇があり、その中央の上部に大きなストゥーパ(仏塔)が載っているという、石造りの段台ピラミッドだ。煩悩から悟りまでのストーリーが1460面ものレリーフで綴られていて、下から登っていって回廊を時計回りに巡りながら最上階まで登ることにより、仏教の経典を学ぶことができる。なんと、寺院全体が仏教の世界観を映し出すマンダラになっているのだ。

 足もとが暗いながらも遺跡の上部に登ると、既に大勢の人が日の出を待っていた。人が多すぎる上、自撮り棒などを使ってカメラを高く持ち上げている人もあるので、けっこう写真が撮りづらい。とはいえ、敬虔な場所だからか、なごやかな譲り合いの雰囲気もあって、それぞれが思い思いに夜明けを待っていた。

メルバブ山とムラピ山の間から太陽が顔を出した!

 だんだん空が赤みを増し、明るくなってきたところで、メルバブ山とムラピ山の間から太陽が昇ってきた。仏像やストゥーパに当たる朝陽の神々しいこと!

左:ストゥーパの中はこんな感じ。腕や指の形にはそれぞれ意味がある。
右:すべての回廊を廻ることはできなかったけれど、ガイドさんに少しだけストーリーを教えてもらった。
1460面のレリーフのうちのひとつ。ブッダが母親であるマーヤー妃のお腹に宿ったときのストーリー。左上にある傘の下にいるゾウがブッダで、マーヤー妃の夢の中に現れてお腹の中に入った。

 太陽が顔を出すと、あたりはどんどん明るくなって朝となった。遺跡の全貌も見渡せるようになった。回廊を全部は廻りきれなかったが、いくつかのレリーフのストーリーを教えてもらいながら遺跡を降りた。

ボロブドゥール遺跡の正面である東側からは、大勢の観光客が遺跡に登っていく。

 この日は、夕方にも再訪した。「アマンワナ」の取材以来、数年ぶりに再会した「アマンジウォ」支配人のイアン・ホワイトさんに勧められたから。「夕方は人が少ないからゆっくり写真が撮れるよ」というのだ。

夕方の、人もまばらなボロブドゥール遺跡。方形の段台が夕陽に照らされて赤く染まっている。

 実際に行ってみると、そこそこ人がいた。が、午後5時になると、サンセット観光のチケットがない人が続々と帰って行く。最終的に残ったのはたったの8人。真っ暗になるまで、月明かりに照らされたストゥーパの写真を撮ったりして楽しむことができた。イアンさん、ありがとう!

左:夕方5時を過ぎると残ったのは8人だけ。朝陽とは違う、柔らかな光を放つ夕陽が西の空に沈んでいく。
右:太陽に代わって月が遺跡を照らし始めた。月明かりでストゥーパを見るためには、サンセット観光の入場券を購入する必要がある。

2015.09.25(金)
文・撮影=たかせ藍沙