独自の理論で揚げられたいくつ食べても食感の軽い天ぷら
天ぷらを食べた翌日は胃がもたれて辛い、なんて経験をした人はきっと少なくないと思います。でもそんな人にこそ、ここの天ぷらを味わっていただきたい。コースを食べ終わって30分もしないうちにもう一度食べたくなるなんて考えられますか? でも、本当にそう話し、1週間後の予約を入れた女性もいるんです――。
外からはマンションの一室としか思えないし、外には一切看板もありません。それが麻布十番に2015年8月8日にオープンした、天ぷら「たきや」へのミステリアスで雰囲気たっぷりなアプローチです。
主人の笠本辰明さんは、東京ミッドタウンの「ザ・リッツ・カールトン東京」の日本料理「ひのきざか」総料理長を務めた料理人。
「私の天ぷらはほとんど独学です。天ぷらという調理方法で、どうやったら食材のうまさを伝えられるかを研究し、到達したのがこの料理なんです」
試行錯誤の結果、笠本さんは揚げる時の音と色と香りの変化で天ぷらの頂点を見極められるようになったのです。
食感が軽い一番の理由は、紅花一番搾りの油を使っているから。江戸前の胡麻油は、天ぷららしい香りはするものの、どうしても胃に負担がかかります。が、この油は食感の軽い天ぷらに仕上がるのです。
そして食材に対するこだわりが半端じゃない。驚いたのは、最初に揚げられた海老の頭。高級天ぷら屋では必ず出てくるネタですが、たいていの店では塩味を感じるのに、ここではまったく感じない!
「うちも海老は塩水で洗うんですけど、海老本来の味を感じていただきたいから、しっかり掃除するんですよ」と笠本さん。キスも身質が細かくて、それに国産の松茸を挟んで揚げるから、身はほっくりして、松茸の香りがたまらない。
さらに驚いたのが椎茸。ふんわりと汁気を残して揚げるのが普通なのに、笠本さんはカリカリになるまで熱を通す。ところがひと口食べると、濃縮された椎茸の旨みが口中に広がるのです。こんな天ぷら見たことがない。
そんな美味をいとも簡単そうに次々と繰り出していくのが、笠本さんの天ぷら名人たる所以でしょう。しかも天ぷら鍋には上下に大きな排気口が設けられ、匂いがまったくしません。
2015.09.21(月)
文・撮影=小暮ひろみ