絞めたての鶏がおいしい! 村の食堂でごちそうを満喫
戦跡ツアーの合間に立ち寄ったのは、地元の小さな食堂。観光地と違って、外国人や大勢のグループが訪れることはまずないのだろう。総勢9名の私たちグループを見て、店のおかみさんは大慌て。「ちょっと待って!」としばらく店の奥に戻り、なにやら家族と相談している様子だったが、やがて「鶏料理ぐらいしか出せないけどいい?」と言って笑顔で招き入れてくれた。
この近辺は、おいしい鶏肉と卵が名物とのこと。この店も裏庭で鶏を飼っていて、お客が来るたび、絞めて料理している。ちょっとだけ裏庭を覗かせてもらうと、おばあちゃん、おかあさん、娘さんの3世代総出で、私たちのための食事を準備してくれていた。
「鶏を絞めて調理する」と聞いて、屋外キッチンではどんな修羅場が展開されるかと思いきや、あっという間に鶏はきれいに処理され、料理が始まった。鶏肉はお酒と生姜と蒸して、パクチーをたっぷり載せた郷土料理に。卵はネギのような野菜を入れふんわりと焼いたオムレツに。3畳ほどのキッチンは豪華ではないけれど、掃除が行き届いていて、とても清潔。ヌクマム(魚醤)やヌクトゥ(ベトナム風大豆醤油)が並んだ調味料棚こそ異国情緒を感じるが、雰囲気は家庭の温かなキッチンそのものだった。
ほどなくして料理が完成。調理してもらっている間に、氷水を入れたバケツで冷やしておいたビールも飲み頃に。蒸し鶏も卵焼きも、素材がいいからか、シンプルな調理法なのに、とにかくおいしい。新鮮なウリを使ったスープは、あっさりとして、メインディッシュにもぴったりだ。私たちは思いもよらず、村の食堂で極上のベトナム料理を味わった。
ハノイもホーチミンも、近代的だし、街を歩く女性たちはとてもファッショナブル。人々も親切で、わずか40年前まで長く厳しい戦争があったことなど、感じることもめったにない。
でも、田舎に足を延ばせば、戦争の爪痕がある。訪れるたび、その優しさと素朴さがいいなあとしみじみ感じていたベトナム。この国の大切な年に戦跡を訪ねることができ、平和なベトナムが以前よりももっともっと好きになった。
【取材協力】
ベトナム航空
URL http://www.vietnamairlines.com/ja/
芹澤和美 (せりざわ かずみ)
アジアやオセアニア、中米を中心に、ネイティブの暮らしやカルチャー、ホテルなどを取材。ここ数年は、マカオからのレポートをラジオやテレビなどで発信中。漫画家の花津ハナヨ氏によるトラベルコミック『噂のマカオで女磨き!』(文藝春秋)では、花津氏とマカオを歩き、女性視点のマカオをコーディネイト。著書に『マカオノスタルジック紀行』(双葉社)。
オフィシャルサイト http://www.serizawa.cn
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2015.08.11(火)
文・撮影=芹澤和美