火の神ペレに会いに、ハレマウマウ火口へ
火山活動によってできたハワイ諸島の中でも、通称ビッグアイランドと呼ばれるハワイ島は、今も火山が活動する、もっとも新しくていちばん大きな島だ。富士山をはるかにしのぐ標高4000メートル級のマウナ・ケア、マウナ・ロアを中心に広がるこの溶岩台地の島には、多くの見どころスポットがある。そこで、ハワイ島を知り尽くしたツアーガイドのBIG-JIN(ビッグ・ジン)さんに、ハワイ島の神話と伝説を感じることができるスポットを案内してもらった。
まずは、ハワイの観光地をめぐるときによく耳にする「女神ペレ」の名前。ペレはハワイの人々の暮らしに根付いた火の神で、キラウエア火山のハレマウマウ火口に住むという。
ハワイ諸島に暮らす人々は常に火山活動とともに生きてきた。途切れることなくあがる噴煙、ときおり起こる噴火は神の業だと考えられ、「溶岩」や「火山」を意味するハワイ語「ペレ」がそのまま神の名前となった。
ペレは美しく情熱的で気まぐれ、そして嫉妬深い。遠くに素敵な男性がいると知れば、駆けつけてその美貌で男性たちを魅了し、思い通りにならないと怒りを爆発させて噴火を起こす。激しい気性でいさかいも多く、最後には姉に殺されて、ハレマウマウ火口に住むようになったという。
「ハワイ火山国立公園内にある、ジャガー博物館の展望台から火口がよく見えます。人が少ない朝のうちにいくと静かでおすすめです。ときおり火口から聞こえるのは、溶岩が空気に触れたときにたてる音。ペレがなにかをささやいているのかもしれませんね。ぜひ耳をすまして、女神ペレを感じてください」
ここハレマウマウ火口はもちろん、ハワイ諸島全域で目にすることができる植物が、ごつごつした木に赤い花を咲かせる「オーヒア・レフア」。ハワイ島の州木でもあるオーヒア・レフアは、溶岩に覆われた、植物が生きるには不利な環境でも育つことができる。
ちなみに「オーヒア」とは木のことで、花のことは「レフア」と呼ぶ。ここにも恋多き女神、ペレの伝説がある。あるときペレがオーヒアという名前の男性に恋をしたがかなわず、男を醜い木に変えてしまった。それを知ったオーヒアの恋人レフアは、オーヒアの木の隣で泣き暮らしていたという。あまりにかわいそうに思ったほかの神が、レフアを赤い花に変えてオーヒアの木に咲かせることにした。だから、木と花をあわせて「オーヒア・レフア」という名前で呼ばれるのだ。
ほかにもハワイ島には「ペレの涙」「ペレの髪」と呼ばれるものがある。
「ペレの涙」「ペレの髪」とはどちらも、溶岩に含まれるガラス質。美しいオリーブグリーンの石「ペレの涙」はペリドットと呼ばれる宝石で、溶岩の塊と一緒に地上に現れる。この石は邪気を焼きつくし、魔除けのパワーがあると言われている。そしてまるで髪の毛のような、繊維状の「ペレの髪」は、溶岩の表面が風に吹かれて細く伸び、急速に冷やされてできたものだ。
「ここは女神ペレが暮らす聖なる場所。そしてハワイ島の溶岩はペレの一部でもあるので、溶岩を島外に持ち出すとペレの怒りをかいます。火山を噴火させるほどのパワーをもつペレが怒ると……きっとものすごくコワイ!! また、オーヒア・レフアのお花を摘むと、離ればなれになったオーヒアとレフアが悲しみます。そして、その涙のかわりに雨が降る。どうかお花は摘まないであげてください」
2015.05.23(土)
写真提供=ハワイ州観光局