【KEY WORD:Apple Watch】

 アップルのつくるスマートウォッチ「Apple Watch」が2015年4月24日に発売されます。話題としてもかなり盛りあがってきているのですが、果たして普及するのでしょうか。

 スマートウォッチはこれまでもソニーやサムスン、モトローラなどさまざまなメーカーから発売されていますが、お世辞にも流行しているとは言えません。デザインの問題などいろいろな要素がありますが、最も大きな原因は「できることがたいしてない」ということだと思います。従来のスマートウォッチの機能のほとんどは、スマートフォンからデータを送信して、時計の小さな盤面の液晶に「メッセージ」「時計」「天気予報」などを表示するという通知機能でした。

 しかし通知だけだったら、そもそもスマートフォンを取り出して確認すればすむ話で、わざわざ別にスマートウォッチを購入して装着する必要などあるのか? という疑問になるのは当然の話です。

 いっぽうで「ウォッチ」とは謳っていませんが、ナイキなどが販売しているアクティブトラッカーと呼ばれる手首に巻く機器は、それなりに盛りあがっています。加速度計を内蔵することで日々の運動量を測ることができ、ネット上で友人と運動量を競ったりできるんですね。

 私はスマートウォッチの機能の本命は、スマホからの通知じゃなくて、このアクティブトラッカーのような身体計測になっていくのではないかと考えています。Apple Watchにも加速度計と心拍計が内蔵されていますが、今後はこれだけではなく、たとえば血圧や摂取カロリー、体温なども測ることのできるセンサーが装備されていくようになると思われます。

利用者が増えるほど正確な情報のフィードバックが

 こうした健康・フィットネスでの活用のメリットは、利用者が増えれば増えるほどネット上でビッグデータが多く蓄積され、ユーザーに対してより正確な健康情報のフィードバックが行えるようになるということです。いったん普及が始まれば、こうした機能が一気に閾値を超えて爆発的にブレイクする可能性はあるでしょう。

 このような役割が中心になるスマートウォッチは、これまでのパソコンやスマホのような電子機器とは役割が大きく異なっています。パソコンは、文字入力やイラストの描画など入力することに最適化された機器でした。これに対してスマホやタブレットは入力はやりにくいのですが、映画や音楽、ブログなどのコンテンツを消費することに最適化されたメディア機器として強力です。

 これらにくらべるとスマートウォッチはキーボードなどでの入力は現実的ではなく、画面も小さいのでメディア消費にはまったく向きません。しかしいっぽうでつねに身体に装着され、身体の状態を測ることによって、ユーザーの状況を判断し、それに合わせてユーザーの行動を支援することに最適化された機器となるでしょう。

 つまり「アシスタント」として人間の行動や思考を補助するための道具として進化していくということです。これを私は、ユーザーのコンテキスト(その瞬間その瞬間に置かれている背景状況)に沿ったデバイスということで、コンテキストデバイスと呼んでいます。そう捉えれば、スマートウォッチはまだ始まったばかりの右も左もわからない黎明期のデバイスですが、将来可能性はかなりあると言えそうです。

佐々木俊尚(ささき としなお)
1961年兵庫県生まれ。毎日新聞社、アスキーを経て、フリージャーナリストとして活躍。公式サイトでメールマガジン配信中。著書に『レイヤー化する世界』(NHK出版新書)、『キュレーションの時代』(ちくま新書)、『家めしこそ、最高のごちそうである。』(マガジンハウス)、『自分でつくるセーフティネット』(大和書房)など。
公式サイト http://www.pressa.jp/

Column

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2015.03.27(金)
文=佐々木俊尚