【KEY WORD:トマ・ピケティ】

 フランスの経済学者、トマ・ピケティ先生の『21世紀の資本』(みすず書房刊)がたいへんな話題になっています。ぶ厚くて文字量が半端なく多く、読むのはたいへんな書籍ですが、同書がこれからの数年間、格差や経済成長についてのグローバルな議論の基調になっていくのは間違いないでしょう。

 この本で「r > g」という公式が一気に有名になり、いろんなところで使われています。いまや相対性理論の「E = mc²」ぐらい有名といってもいいかもしれません。

 この本の内容を究極にまで単純化して言うと、こういうことです。「高度成長が続いて社会全体が豊かになったり、戦争や恐慌などでお金持ちの資産が目減りしちゃうような特殊な時期を除くと、つねにお金持ちはどんどんお金を増やしていくのに対して、勤め人など一般の人はそんなに収入が増えない。だから格差はどんどん開いていくというのが真実だった」。

 振り返ってみれば「近代」というのは、産業革命や国民国家の成立、アジアとアフリカの植民地化などを背景にして、ヨーロッパやアメリカ、日本などの先進国で経済成長が続いた時期を指していると言い換えてもいいでしょう。でもこの時期は長い人類の歴史の中で言えばかなり特殊な時代だったといえます。そもそも人類の長い歴史のあいだのほとんどの時代では、経済はそんなに成長していません。

 いま産業革命の影響が終わりつつあって、その特殊な時代が一緒に終わろうとしています。その先の社会では、「近代」を前提とした政治思想や経済論はもはや成り立ちません。リベラリズムにしろ社会民主主義にしろ、経済成長をテコとして社会に富を分配していこうという原理で駆動してきました。だとすると成長が失われ、しかしお金持ちにお金が集中してしまうピケティ的な世界で、どう平等を実現していくのか。これはとても難しい課題です。

これから必要なのは「世界全体での徴税」!?

 ピケティ先生は、世界全体でお金持ちやグローバル企業から税を徴収できるしくみをつくるのが良いと説いています。いまの状況だと、たとえばイギリスやフランスでお金持ちやグローバル企業から税金をとろうとすると、ルクセンブルクやケイマン諸島などの税金の安い土地に逃れていってしまうからです。だったら国ごとではなく、世界全体で徴税すればいいということなんですね。

 とはいえ、このようなことが現実として可能なのかどうか。そもそも大企業がプラットフォーム化して世界の基盤となっていく中で、それら強大なグローバル企業を、衰退していく国民国家が規制していくなんてことができるのかどうかは、悩ましいところです。

佐々木俊尚(ささき としなお)
1961年兵庫県生まれ。毎日新聞社、アスキーを経て、フリージャーナリストとして活躍。公式サイトでメールマガジン配信中。著書に『レイヤー化する世界』(NHK出版新書)、『キュレーションの時代』(ちくま新書)、『家めしこそ、最高のごちそうである。』(マガジンハウス)、『自分でつくるセーフティネット』(大和書房)など。
公式サイト http://www.pressa.jp/

Column

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2015.02.13(金)
文=佐々木俊尚