【KEY WORD:ドローン】

 ドローンということばが流行しています。この英単語はもともとは「オスの蜂」という意味。広い意味では無人航空機全体を指していますが、最近では、4つのローターを持つ超小型のヘリコプターを意味することが多くなっているようです。とはいえ車輪があって地面を走る小型の無人走行車両を「地上走行ドローン」なんて呼ぶ例もあったりして、定義はあまりはっきりしていません。無人で超小型で、ラジコンのように操作できる乗り物の総称のようになっている感じはありますね。

 ドローンの可能性は無限に開かれています。いちばんわかりやすいのは、新しい映像撮影でしょう。人間が操縦する従来のヘリコプターや飛行機と異なり、ドローンは地上数メートルぐらいの超低空飛行が可能で、建物や洞窟などの中にも入っていくことができます。まったく新しい映像技法が可能になり、「空撮だけど人間や動物の表情まで認識できる」というような表現もできるようになりました。スマホのカメラで自分を撮影する「自撮り(セルフィー)」を、ドローンでというのも出てきてますね。自分と家族や友人のスナップを空中から撮影するなんて、なかなか素敵です。

 有人ヘリとくらべると音も静かなので、捜索救助活動がおこなわれている被災地などのニュース映像撮影にも活用されることが期待されています。くわえて被災地では崩壊した建物の中や土砂崩れの現場など、人間が入り込めないような場所に送り込むことで被害者を捜し出すなど、救助活動にも応用できます。熱帯雨林や極地など環境の厳しい場所で野生動物の分布を調べるといった、環境保護活動への応用も考えられています。

 さらに輸送手段としての活用方法もあります。アマゾンやDHL、グーグルなどの大手企業がドローンを使った宅配を検討し、実際に実験を繰り返しているのは有名な話です。またアフリカでは、道路が未整備だったり、夏の洪水で道路が使えなくなったりするような場所に医薬品などを運ぶため、ドローンのネットワークを構築する計画も準備されています。超小型のドローンはそんなに遠くまでは飛べないのですが、航続距離に合わせてあちこちに電源のあるステーションを設置しておくのですね。ドローンがやってきたらステーションに自動で着陸し、バッテリーも充電します。そしてステーションからステーションへとホップしながら飛んでいけば、バッテリーの残り時間を気にすることなくどこまででもモノを運んでいくことができる。このネットワークをアフリカの不便な場所にも張りめぐらすことができれば、どんな僻地の村にも医薬品など必要なものを送り届けることができるのだとか。

 ドローンはさまざまな種類の製品がでまわっていて、価格も数万円ぐらいからとかなり値ごろになってきています。個人の消費者にも、一気に普及しそうな雲行きですね。

墜落の危険やプライバシーの侵害などの問題点も

 ただ、一方でドローンが普及してくると、さまざまな問題も生じてくるでしょう。最大の問題は、墜落です。いまは何の規制もされていないので、個人が遊びで飛ばしているものも含めてさまざまなドローンが自由に低空を飛び交っていますが、数が増えてくればドローン同士で衝突したり、何かにぶつかったり、操作ミスなどで墜落するケースも多発してくるでしょう。超小型とはいえ、ドローンは決して軽いものではありません。中には100グラムぐらいの超軽量のものもあるようですが、たいていは1キログラムから数キログラム。グーグルやアマゾンが計画している配送用ドローンは、荷物の重さも含めれば10キログラム前後にはなりそうです。これが空中から落下してきたりしたら、重大事故になってしまう危険性はじゅうぶんにあります。

 またプライバシーの問題もあります。超低空から撮影できるドローンは、普通の民家の敷地内にも簡単に入っていくことができますし、高層マンションの窓に近寄っていって、室内を撮影することもできてしまいます。予想もしていなかった盗撮映像が出まわってしまう、ということも起きてきそうです。

 おそらくこういう事態が進行するのに併せて、政府の規制も徐々に進んでいくことになるでしょう。ドローン先進国であるアメリカでは、州ごとに規制法ができたり、国立公園でのドローン利用を禁止する通達を政府が出すなど、さまざまな動きが始まっています。日本でも早晩、こういう動きは出てくるでしょうね。安全やプライバシーを確保しながら、さまざまに有効活用もしていくというバランスを求めていきたいところです。

佐々木俊尚(ささき としなお)
1961年兵庫県生まれ。毎日新聞社、アスキーを経て、フリージャーナリストとして活躍。公式サイトでメールマガジン配信中。著書に『レイヤー化する世界』(NHK出版新書)、『キュレーションの時代』(ちくま新書)、『家めしこそ、最高のごちそうである。』(マガジンハウス)、『自分でつくるセーフティネット』(大和書房)など。
公式サイト http://www.pressa.jp/

Column

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2014.12.19(金)
文=佐々木俊尚