【KEY WORD:火山の危険】

 御嶽山の噴火で、たくさんの人が亡くなるという痛ましい事故がありました。私たちは火山の危険をどうとらえればいいのでしょうか。

 霧島の新燃岳を研究されている火山学者、鹿児島大学准教授・井村隆介さんの発言が話題になっています。取材に来た記者から「二度と被害を出さないようどうすべきでしょうか?」と聞かれ、井村さんはこう答えられたそうです。「今回のような噴火は防げない。原因は運が悪かったとしか言えないと思う。それを避けるためには、火山には登らないことですね」。

 事前に予測できるのであれば、リスクは避けるべきだということになるでしょう。でも噴火の予知は、非常に難しいのが現実です。となると、噴火のリスクを絶対に避けたければ、もはや火山に登らないという選択肢しかありません。

 しかし登山はしなくても、日本はそこらじゅうに火山がそびえ立っています。観光地の道路を走っている時や仕事で遠出をしている時なども、いつ火山の噴火で噴石や火砕流などの被害に遭うのかはわかりません。「概ね過去1万年の間に噴火したことのある火山」が活火山の定義ですが、この定義にしたがえば日本の火山は110にものぼるのです。日本で活火山がないのは四国だけですから、四国に移住するぐらいしか火山リスクを限りなくゼロにする方法はないということになるでしょう。

 そもそも火山はなぜ噴火するのでしょうか。

 地球の内部では、マントルと呼ばれる岩石の層が対流しています。このマントルが表面に近いところまで流れてくると、圧力が低くなるため、融点も低くなり、その結果岩石が溶けて液体になります。これがマグマなんですね。ハワイの火山の映像などで熱い溶岩が流れているのを見ますが、あれがマグマです。

 マグマには水分が溶け込んでいます。マグマが上昇して圧力がさらに低くなると、溶けていた水分が分離して水蒸気になります。このためマグマは膨張しようとするんですね。この圧力が限界まで高まったり、地震で揺さぶられたり、下から新たなマグマが押し上げてきたりすると、まわりの岩石を破壊して、ドカーンと外に出ていくことになります。これが噴火のメカニズムなんです。

 こういうメカニズムなので、噴火の前にはマグマがふくれて山が膨張する予兆があったり、火山性微動が起きたりするのですが、これも絶対的な予兆ではありません。実際、今回の御嶽山では予兆はほとんどなく、いきなり噴火しました。マグマそのものが噴出したのではなく、地中の水分がマグマに触れて水蒸気爆発を起こしたことによる噴火だったため、マグマの動きがつかみにくかったということもあるようです。

超弩級レベルは9万年前の阿蘇山噴火

 過去には日本でも巨大な噴火が何度となくありました。超弩級レベルだと有名なのは、9万年前の九州・阿蘇山の噴火。火砕流が九州全土を覆い尽くし、さらに関門海峡を越えて山口県にまで達したというから驚かされます。山口県の地層に、当時の火砕流の跡が残っているというのですね。さらに火山灰は北海道や朝鮮半島にまで届いたそうです。阿蘇は、直径約20キロもある巨大なカルデラで有名ですが、この9万年前の噴火の時にできたものだそうです。もし噴火前の山容が富士山のような独立峰だったら、富士山よりもずっと高い山だったはずだとまで言われています。

 以前は「活火山」のほかに「休火山」「死火山」という分類もありました。現在は活動していないが歴史時代に噴火した記録が残っている火山を「休火山」。有史以来噴火していない山は「死火山」であって将来も活動することはないだろうと思われていたんですね。しかし火山活動の期間は数千年単位、時には数万年単位なので、有史以来という区切りはあまり意味がありません。

 御嶽山は1979年にも噴火しましたが、これは有史以来初めてのできごとでした。死火山だと思われていたが、実際にはそうではなかったということなのですね。そう考えれば、活動していないように見える他の火山も、いつ噴火するのかは誰にもわかりません。火山に登る時にはヘルメットを被るとか、防災用具として防塵マスクを用意しておくなどの最小限の備えは必要ですが、それ以上の危険性はまさに「運を天に任せる」しかないということなのでしょう。

佐々木俊尚(ささき としなお)
1961年兵庫県生まれ。毎日新聞社、アスキーを経て、フリージャーナリストとして活躍。公式サイトでメールマガジン配信中。著書に『レイヤー化する世界』(NHK出版新書)、『キュレーションの時代』(ちくま新書)、『家めしこそ、最高のごちそうである。』(マガジンハウス)、『自分でつくるセーフティネット』(大和書房)など。
公式サイト http://www.pressa.jp/

Column

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2014.10.17(金)
文=佐々木俊尚