【KEY WORD:軽自動車】

 軽自動車が盛りあがっています。業界団体が発表した数字によると、昨年販売された新車のうち軽自動車が占める割合は39.7%にものぼって、4割に達する勢い。販売台数も過去最高になりました。

 背景にはガソリンの価格が上がっていることや、収入が不安定な時代にあって軽自動車の維持費の安さが注目されていることなどがあります。加えて、以前のようにマイカーにステータスシンボルを感じる人が減り、輸入車や高級車に興味を持たず、「移動できるのなら何でも構わない」と思う人が増えているということもあるのでしょう。

 実際、軽自動車に乗ってみるとその魅力はよくわかります。取り回しがしやすく、駐車が簡単で、山の中の細い道でも市街地の路地でも気楽に入っていける。燃費もいい。高速道路をひんぱんに長距離ドライブするのでもない限り、地方でも都市部でも移動手段としての軽自動車はピカイチだと思います。

 軽自動車ってそもそも何でしょうか。長さが3.4メートル、横幅が1.48メートル以下、排気量は660ccまでといった規格に当てはまる自動車のことで、日本独自のものです。もともとは戦後間もないころに流行ったオート三輪などの簡易なクルマに源流があるのですが、規格が決められたのは1949年のことです。オート三輪というのはもともとはオートバイの後部にトラックの荷台のようなものを加え、運転席に屋根をかぶせただけというような簡単なものでした。そこから軽自動車的な発想が生まれ、だんだんと進化し、オートバイのようなバーハンドルから自動車の丸いハンドルへと変化し、座席も椅子型に変わり、そして馬力も強くなり、今のような乗用車型が登場し、と変わってきました。サイズや排気量の規格も当初とくらべるとかなり大きくなり、そしてエアコンやカーステレオやエアバッグが標準装備されるようになり、一般の自動車と同じように乗りやすく居心地も良いクルマへと変わってきたんですね。

地方のロードサイド文化を支える移動手段

 戦後の軽自動車の市場を見てみると、1960年代ぐらいまで急成長していたのが、70年代に入るといったんしぼんでいます。これは73年に車検が必要になったことと、日本人が豊かになってステータスシンボルとして大きなクルマを求めるようになったためでした。1971年には、1200ccの日産サニーがテレビCMで「隣りのクルマが小さく見えます」というキャッチコピーを使って話題になりました。

 70年代後半になると運転する女性が増えたことや、メーカーの努力でさまざまなタイプの軽自動車が登場したことで、ふたたび軽自動車が注目されるようになっていきます。

 三菱総研が2008年に行ったアンケート調査では、乗用車タイプの軽自動車だと女性の比率は約65%。普通の乗用車が女性比率約25%なのとくらべると、軽自動車は圧倒的に女性が多いことがわかります。70歳以上の高齢者の比率も、乗用車が約4%なのに軽自動車は約10%。高齢者と女性に活用されているということがよくわかりますね。

 最初のモータリゼーション(自動車の大衆化)は男性中心でしたが、この軽自動車のモータリゼーションが女性や高齢者に広がることで、地方の駅前商店街ではなく、国道沿いのショッピングセンターに買い物に行くという形態が普及していきました。そしてそういうショッピングセンターが拡大すればするほど、軽自動車がさらに必要になり、というように地方のショッピングセンターと軽自動車は「両輪」として地方のいまのロードサイド文化を支えてきたといえると思います。

 このように軽自動車は地方の生活に完全に融合し、もはやなくてはならない移動手段になっているといえます。

 一方で国交省は新しいタイプの超小型電気自動車を、地方の生活の足にするというようなプランを発表しています。また海外からも軽自動車という日本独自の規格が、非関税障壁になっているという批判もあります。しかしここまで生活に密着している軽自動車はそう簡単にはなくせないでしょう。将来的にコンパクトシティのような新しい試みが地方に根付くか、そうでなければグーグルなどが開発している自動運転車が完全に普及するといったイノベーションが起きない限り、日本の軽自動車文化はこれからも発展していくのではないかと思われます。

佐々木俊尚(ささき としなお)
1961年兵庫県生まれ。毎日新聞社、アスキーを経て、フリージャーナリストとして活躍。公式サイトでメールマガジン配信中。著書に『レイヤー化する世界』(NHK出版新書)、『キュレーションの時代』(ちくま新書)、『家めしこそ、最高のごちそうである。』(マガジンハウス)、『自分でつくるセーフティネット』(大和書房)など。
公式サイト http://www.pressa.jp/

Column

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2014.08.22(金)
文=佐々木俊尚