【KEY WORD:自治体消滅】
日本の人口が減っていくとどうなるのか? 少子高齢化の中でこの問題は昔から議論されているのですが、さほど具体的には語られていませんでした。ところがここに来て、「いったい何が起きるのか」ということについてかなり明確なイメージが描かれるようになってきています。
たとえば日本創成会議という団体は、子供を産む可能性が高い20~39歳の女性が減っていくとどうなるかということを考えました。2040年には全国の半数近い市区町村で、この年齢の女性が半分以下になってしまい、そうなると人口そのものを保てなくなって、自治体が消滅してしまうのではないかと指摘しました。この中には秋田県や青森県の大半の自治体が含まれていて、さらには大都市圏でも東京都豊島区などもそうなるとあって、多くの人が衝撃を受け、日本中が大騒ぎになりました。
似たようなことは国土交通省も言っています。2050年には、全国の6割の地域で人口が半分になり、さらに2割の地域では人口がゼロになるという予測を立てているんですね。
以前は、人口減というと「山村の限界集落が消滅してしまう」「田舎の村がなくなる」というようなイメージで語られることが多かったと思います。でもこれらの予測からわかってきたのは、人口減は山奥に限った話なんかじゃないということ。イオンのショッピングモールや携帯電話ショップが国道バイパス沿いに立ち並んでいるような地方都市であっても、消滅の危機に立たされていく可能性が出てきたということなんですよ。
ますます人の住まない場所が増えていく
実際、交通の便の悪い郊外は、首都圏でさえももはや中古住宅がまったく売れない状況になっているという話をあちこちで耳にします。高齢者が住んでいた郊外の戸建て住宅が、住人がいなくなるのとともに空き家になり、しかし私鉄の駅から「バスで10分、徒歩5分」のような立地の悪い場所ではもはや価格をゼロにしたとしても誰も買ってくれない。相続する子供は、固定資産税は払わなければならず、かといって売却もできずに、廃屋になっていく実家を前に途方に暮れる……というようなことが起きているんですね。
全国の空き家率は、国土交通省の統計によると、1988年の9.4パーセントからだんだんと増えてきていて、2008年には13.1パーセントにまでなっています。今年後半には2013年現在の統計データがまとめられる予定ですが、空き家率は20パーセントに達するのでは? と予想している専門家もいるようです。
さらにマンションなどの集合住宅では、老朽化が進んで建て替えないと住み続けられないという物件もどんどん増えていきます。マンションが不足していた時代には、世帯数を増やして外部に販売し、その売上で建て替え費をまかなうようなモデルも可能でしたが、家がありあまってきた状況ではそれも厳しくなっています。都会でも郊外でも田園地帯でも、ますます人の住まない場所は増えていくでしょう。
住人が一定数以下に減ってしまえば、ショッピングモールやファストフード店も成り立たなくなります。そうやって大規模店舗が撤退し、日常の買い物さえままならなくなってしまった郊外の都市。いったいそこには将来、どのような荒廃した風景が広がっていくことになるのか。このような陰惨な未来が、きわめて具体的なイメージとして描かれるようになってきた今だからこそ、これからの都市作りをどうするのかを全員で考えていく時期にまさに来ているのではないかと思います。
佐々木俊尚(ささき としなお)
1961年兵庫県生まれ。毎日新聞社、アスキーを経て、フリージャーナリストとして活躍。公式サイトでメールマガジン配信中。著書に『レイヤー化する世界』(NHK出版新書)、『キュレーションの時代』(ちくま新書)、『家めしこそ、最高のごちそうである。』(マガジンハウス)など。
公式サイト http://www.pressa.jp/
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2014.06.27(金)
文=佐々木俊尚