【KEY WORD:エボラ出血熱】

「エボラ出血熱」が、西アフリカで猛威を振るっています。

 どんな病気なのでしょうか。最初は目が充血し、やがて高熱と嘔吐がはじまります。全身に赤い斑点ができてきて、血管が腫れ上がったり、口の中から出血が始まったりします。そして皮膚がはがれて血が染みだしてしたたるようになり、やがて内臓も破裂して、口からも肛門からも大量の血液が流れ出し、最後は死に至ります。

 こうやって描写しているだけでも怖ろしげな感染症なのですが、加えて感染すれば50~90パーセントの人が亡くなるという驚異的な致死率もあり、映画やパニック小説などのかっこうの題材になってきました。アフリカから密輸された猿がきっかけで、アメリカ全土で爆発的な感染が起きるというストーリーの映画『アウトブレイク』(1995年)も、エボラ出血熱をモデルにしています。

 1976年に最初にスーダンで患者が発生して以来、これまでアフリカで何度となく流行と終息を繰り返してきましたが、今回の流行はかなり深刻です。この30年にトータルで1600人弱ぐらいしか死者が出ていなかったのに、今回の流行ではわずか半年で700人以上も亡くなっていること。これまでの流行が人の少ない山間部で起きていたのに対し、今回は都市部という人が密集しているところで流行していること。都市では感染した人を即座に隔離するのが難しいため、これからも広がっていく恐れがじゅうぶんにあります。

アフリカ以外のエリアへの感染の恐れは?

 これまでエボラ出血熱が発生してこなかった、アフリカ以外のエリアへの感染の恐れはどうなのでしょうか。いま患者が出ているリベリア、ギニア、シエラレオネ、ナイジェリアから直行便が出ているのは、ヨーロッパと中東、それにアメリカのニューヨークとヒューストン、アトランタです。アジアではペルシャ湾より東側には、直行便は飛んでいません。インドや中国、東南アジア、そして日本に、感染した患者が直接やってくる可能性はいまのところ低いとはいえるでしょう。

 ただ中国は最近、アフリカ諸国との結びつきを強めていて、中国人ビジネスマンがたくさんアフリカに渡っています。先日もアフリカ旅行から帰国したばかりの香港の女性が感染を疑われたケースがあり、アジア一帯に緊張が走りました。陰性と判断されてみな胸をなでおろしたのですが……。

高致死率ゆえに終息は早い

 とはいえ、エボラ出血熱の恐怖をあまりに言い立てるのは、煽りに過ぎるという専門家の指摘も少なからずあります。

 致死率はたしかにきわめて高いのですが、この致死率の高さによって、他人に感染させる前に患者が亡くなってしまうことが多く、したがって的確に隔離すれば爆発的に感染することはないとされています。実際、過去の流行でも終息は早く、1995年のザイールでの感染はわずか6週間で収まりました。感染者はおおむね3日で発病し、その後数日で亡くなるという驚異的なスピードが早い終息をもたらしたようです。

 またエボラ出血熱は患者の血液などに触れなければ、感染はしません。空気感染するわけではないのですね。

 そもそも他の感染症のマラリアやコレラは、過去に何十万人も亡くなっています。それに比べればエボラ出血熱の死者は2けたぐらいは少なく、人類にとっての大きな脅威といえるほどではありません。症状の恐ろしさや、小説や映画、メディアなどで過剰に恐怖が煽られている部分も大きいのではないかと思います。日本に仮に侵入してきたとしても、爆発的な感染になる危険性は低いでしょう。冷静に推移を見守るべきでしょうね。

佐々木俊尚(ささき としなお)
1961年兵庫県生まれ。毎日新聞社、アスキーを経て、フリージャーナリストとして活躍。公式サイトでメールマガジン配信中。著書に『レイヤー化する世界』(NHK出版新書)、『キュレーションの時代』(ちくま新書)、『家めしこそ、最高のごちそうである。』(マガジンハウス)など。
公式サイト http://www.pressa.jp/

Column

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2014.08.08(金)
文=佐々木俊尚