原作にはない方言による会話が活き活きしている
まずは風景。原作は登場人物の地元を架空の県に設定しているが、映画は原作者の辻村さんと矢崎監督の故郷である山梨で撮影されている。山に囲まれた街、電車に乗って上京するときに通るたくさんのトンネル。最も重要なシーンの舞台となる体育館も、山梨県内のほとんどの中学・高校をロケハンして選んだそうだ。体育館の大きな窓から差し込む太陽の光、長い髪を広げて校庭に寝転ぶ少女たちの顔を照らす光、クラスの勢力図が変化する前兆のような日蝕、深夜のラジオ局の暗闇、地方都市の夜景。光と影のコントラストが美しい。
そしてキャスト。主演の水川あさみと木村文乃の静かで張り詰めた演技も印象的だったが、高校時代を演じた若手俳優たちの生々しさがよかった。もちろんオーディションを勝ち抜いたくらいだから可愛くてカッコいいのだけれど、田舎の高校生らしい野暮ったさもある。原作にはない方言による会話も活き活きしていた。
登場人物は原作よりも少なくなったが、その分、映画ならではの魅力を加えられたキャラクターもいる。由希だ。カポーティの『ティファニーで朝食を』に憧れ、高校生のときからおしゃれに気を配り、東京に出て流行の最前線を目指す。地方女子の典型的なタイプだ。アパレルメーカーに勤めているといっても実は経理と雑用担当の臨時職員なのに、人気ファッションブランドのデザイナーをしていると嘘をつく。〈一番嬉しいのは、褒められること。二番目は、妬まれること。田舎に残ったさえない一団が自分を見て弱い者同士で何か囁き合っているとぞくぞくする〉という。
そんな彼女が映画で身につけている服は、映画「ティファニーで朝食を」でヒロインのホリー・ゴライトリーを演じたときのオードリー・ヘップバーン風。原作にはいない猫を飼っているのも、ホリーが飼っているからだろう。外見を真似てもホリーのように自由にはなれないところが愛おしい。ひとり暮らしの部屋の生活感のなさと、対照的な実家のごちゃごちゃとした佇まいもリアル。
細部をじっくり見るとより味わい深い映画。ぜひ小説とセットで楽しんでください。
石井千湖 (いしい ちこ)
佐賀県出身。書店勤務を経て、現在は書評や著者インタビューを中心に活動するライター。総合情報サイト「オールアバウト」で書籍・雑誌のガイドもつとめる。趣味は美術鑑賞。
Twitter https://twitter.com/ishiichiko
2014.10.01(水)
文=石井千湖