松の木を間に挟んで、クマが左に回り込もうとすれば真野は右へ、右から回り込もうとすれば左へ逃げる“追いかけっこ”のような状態になった。

「それを3回ぐらい繰り返した後で、『いつまでもこうしていてもしょうがない』と。向かってくるクマの顔面を右脚で蹴ったんです。格闘技の経験はありませんが、ボクシングでいうカウンターのような感じで自然と足が出ました」

「もう1回噛まれたら死ぬな」

 だがヒグマの顔面に当たった瞬間、真野の右足首はあらぬ方向へと捻(ね)じ曲がっていた。

 右足だけではない。軸足となっていた左足首にも衝撃が走った。

「両足ともグニャッとなって、立っていられず、転倒して仰向けの態勢になりました」

 そこに覆いかぶさってきたクマは、立て続けに2回、今度は真野の頭に噛みついた。

 一連の攻撃の間、クマは吠えることも唸ることもなかったという。

「気がつくと目の前にクマの顔があって、顔によだれが垂れてきて……『あ、これはもう1回噛まれたら死ぬな。人間ってこうやって死んでいくんだな』と一瞬考えました。それでも『次に噛んできたら、これで反撃しよう』と、腰に下げていたサバイバルナイフを手で探りました」

 だが、幸いにも「次」はなかった。

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