林道に止めた車の中で、コンビニで買ったパンで簡単に昼食をすませると、真野は再び山林に入った。
「午前でやめとけばいいのに、やめなかったんですよね」と真野が振り返る。
実は午前中の活動でクマ鈴をどこかで落としてしまっていたのだ。
そこにヒグマがいた
午後の活動を始めたときも、ブンタの姿は見えなかったが、いつものことなので特に気にすることもなく、午前中は回らなかった“ポイント”へと向かう。活動開始から10分足らず、車から100メートルほど離れた茂みをぬけると、そこにヒグマがいた。
「距離はせいぜい2、3メートルしかありませんでした。だから、クマだと認識する前に『何がある!』という感じで、思わず叫びながら持っていた高枝鎌(長い柄のついた鎌)を反射的に突き出していました。私が先に手を出したんです」
鎌は四つんばいになったクマの前肢の肩付近に当たった瞬間、ポキリと折れた。
同時にクマが反撃に出てくるのがわかった。真野が本能的に右腕で顔をガードするような態勢をとると、クマはその右腕に噛みついてきた。
「それで小指の骨が砕けたんです、今でもほら、ここが……」
そう言って真野が右手と左手の小指を合わせると、確かに右手の小指付近が抉(えぐ)られたように凹んでいる。クマは真野の腕を3回噛むと、ようやく少し離れた。
「ちょうどクマと私の間に高さ3メートル、太さ15センチぐらいの松の幼木があったので、それを挟んで対峙するような格好になりました」
クマの体長は1.5メートルほど、体重は100~150キロの成獣のようだった。
