「顔がいいから」という呪縛
――美形であるがゆえに「自分は顔しか見てもらえない」という苦しみを持っている正市も、とても興味深いキャラクターです。
松虫 正市は、ジョナと対比するキャラクターとして考えました。まずは、見た目がよいことをコンプレックスに思う人の気持ちを知ることがスタートになりました。
あるイケメン俳優がテレビ番組で食事をしたときに、箸の持ち方が下手だと話題になって「イケメンなのに残念」のように言われていて。そうか、顔がいいとそう判定されちゃうんだと思って。「顔がいいから当然食べ方も美しかろう」みたいに。
――作中で、正市のセリフにもありますね。「みんな、勝手に持ち上げて勝手にガッカリする」と。これは……自分自身、そうやってイケメン差別をしていることがあるだろうなと思いました。
松虫 描きながら、自分自身でも無意識に言及していることはあるだろうなと思いました。昔よりかは無くなっていると思いますが、自分の中でもまだ根深いと思っています。
――ストーリーが進み、ジョナと正市の距離が近くなるにつれ、お互いの苦悩もだんだんと浮かび上がっていきます。ジョナがズバッと「いいですよね、見た目が良い人は」と言ってしまう、言わずにおれなかった気持ちもわかります。
松虫 ママにはこんなふうに言えないんですけどね(笑)。当初は、正市のキャラクターがなかなか決まらなかったんです。「顔が良くて特にやりたいことがない人」というだけで。これだけだと、「正市の満たされなさ」がジョナのマインドと交わらなくて、うまく転がっていかないなと思っていました。
取材をする中で「書字障害」というものを初めて知って。正市がこの障害を持っていたら「見た目がいいのに、みんなと同じことができなくて残念」と言われてしまうんだろうなと想像できて。
――それによって「正市の満たされなさ」と、ジョナが適応学級で働いていることがリンクするわけですね。
松虫 障害を持ったキャラクターが、じつは天才的だったり、すごい能力を持っているというふうに描かれるというパターンは多くて。それもあっていいけど、「そうじゃないと認められない」みたいな感じにならないかという懸念もあります。なので、正市の場合は「たいした特技もないキャラクター」ということを意識しました。特技があるとしたら林檎の剪定がうまいくらい。
――「たいした特技」もないというキャラクター設定、むしろフレッシュに感じますね(笑)。明確な長所と短所があって「キャラが立ってる」のが基本みたいなところがあるので。
松虫 正市があんまりいい人すぎるのも不自然だろうなぁと。しんどい人生を送ってきたのにそんな聖人でいられるわけがないですし。
――「残念」と言われるのはあきらめているけれど、めちゃくちゃひねくれているとか斜にかまえているわけではない。ジョナをことさら持ち上げはしないけど、「かわいい」と思ったら直球でほめたり、率直に表現する。独特なキャラクターであり、自然に感じます。
松虫 個人的には「苦労したから人にやさしくできる」という言説は好きじゃないんですよね。正市はやさしいところもあるけど、大人げないところもあるように描きたかったんです。
