ありのままではなく試行錯誤した自分を選んで欲しい
――ご両親やご祖父母も伊藤さんを慈しみながら育てられたのだと思いますが、家族からの愛情では「愛されている私」は拡張しなかったのでしょうか?
そうですね。もちろん愛して育ててくれましたが、それは「無課金の自分」というか、勝ち取った自分ではないので。
――無垢な自分を愛されるより、様々な経験をして出来上がった「今の自分」を愛されることに意味がある?
ありのままの自分が愛されるってなんだか不安です。よく言われている「ありのまま」が何を意味しているのかはっきりとはわからないですが、自我のない赤ちゃんみたいな状態を指すのだとしたら、だったら誰でもいいことになっちゃいますよね。純粋無垢な状態の人間なんて、みんな似たようなものでかわいいですから。いろいろ経験をして試行錯誤したあとにあとに愛されると、選ばれた実感が生まれますよね。
――『魔女になりたい』では、お母様への憧れを感じさせる描写があります。幼い伊藤さんを愛してくれたお母様と、今のお母様との関係に変化はありますか?
母は、今の私のほうが好きだと思います。以前、母に「どうして子どもを二人産んだの?」と聞いたことがあるんです。そうしたら、「面白いから」と返ってきて。だから、人間として面白く成長できていたらいいなと思います。
母から、いわゆる“無償の愛”を感じたことはあまりないんです。母の美意識に背くようなことをすると、きちんと軽蔑される。子どもながらに「あ、今、軽蔑されている」と感じて、やめるんですよ。だから今でも、母のお眼鏡にかなう存在でありたいという気持ちはあります。
――お母様からすごく影響を受けていらっしゃるのですね。
私の喋り方は、ほぼ母のコピーなんですよ。私の中の社交性をゼロにしたのが母ですね(笑)。いまだに思春期のようで、さなぎのまま50代になったような人です。
――対して、お父様はまた違った存在ですよね。
そうですね。エッセイ「パパと私」でも書いているように、一度決別して、全てがうやむやになって、また戻るまでに10年かかりました。お互いにとって必要な時間だったんでしょうね。
あの頃は父がどんな人なのかわかろうとしていなかったですし、父は自分をどう見ているか、ということばかり考えていたんです。でも時間が経って、私もある程度強さみたいなものを手に入れたので、父親の新しい部分が見えてくるようになりました。それはすごく良かったと思います。より一人の人間として接することができるようになりました。
