ユキ、と表情に乏しい顔で娘を追いかける黒川の姿は、高校時代の黒川を連想させた。
そうだ、あの頃もよく黒川はあんな顔をしていた。誰かに感情を悟らせまいとしているような無表情。班決めで余ってしまったとき、修学旅行での自由時間、聞こえよがしに悪口を言われていたとき――黒川とつき合うことになったきっかけも、黒川への悪口を窪田が咎めたことだった。
そのとき悪口を言っていた女子が誰だったかは忘れてしまったが、『そういうのやめろよ』と口を挟むと『何あんた、ウザいんだけど』と顔をしかめられ、何を言われようと自分に非がないと確信できている限りは意外と平気なものなんだなと考えたことは記憶にある。
窪田が平然としているのが気に食わなかったのか、その女子は鼻を鳴らし、
『黒川さんって男に媚びるのだけは上手いよね』
と再び黒川に矛先を向けた。黒川は、能面のような無表情でうつむいていて、窪田は『俺が嫌だと思っただけだよ』と言い返した。
『じゃあ、あんたが黒川さんに媚びてるんだ』
やだー、と他の女子がその女子の肩をつついて笑う。ここで違うと言えば自分も悪口に加担することになると思い、『そうだよ』と答えると、誰かが『うわ、告白じゃん』と言って教室中がどっと沸いた。
窪田はため息をつきたくなるのを堪えた。本当のところ、黒川のことを異性として意識したことは一度もなかった。何でこんな流れになるんだ、とうんざりしながら、こうなった以上はそういうことにしておくべきなんだろうな、と冷静に考えていた。
黙っているうちに囃し立てられ、二人で話してきなよと揃って教室を追い出された。そのまま教室の前で話す気にはなれずに自然と階段の踊り場まで移動し、足を止めたところで『変なことになっちゃってごめん』と声をかけると、黒川は、ううん、と小さく首を振った。
『窪田くんが私を助けるために言ってくれたのはわかってるから』
