人さし指で顔をさされ、窪田は半身を引いた。
「高松さんも変わらないね」
「えー変わったでしょーこういうときは綺麗になったとか言うんだよー」
高松は口を尖らせたかと思うと、すぐに「なんてね」と歯を見せて笑い、ほとんど間を置かずに「そういや話変わるけど窪田って今彼女とかいるの?」と続ける。
「……また随分話が変わったな」
「ね、どうなの。まだ結婚はしてないよね?」
高松は訊きながら窪田の左手へ視線を流した。窪田は何となく紙皿を持ち替えて「してないけど」と答える。
高松は「お」と身を乗り出した。
「じゃあ、黒川さんとかどう?」
「は?」
訊き返す自分の声が思いのほか大きく響いたことに気づいて、テントの方を見る。ちょうど黒川がテントから出てくるところでぎくりとしたが、黒川はこちらを向くことなくテントの内側を振り向いて両膝をついた。娘の前に小さなサンダルを並べると、すかさず娘が「じぶんでできる!」とサンダルを引ったくって履き始める。だが、近くにいた女子が「何歳?」と尋ねた途端にパッと黒川の脚に隠れるようにつかまった。
「四歳なの」
代わりに答えたのは黒川だった。その声は記憶の中にあったものよりも少しだけ低い。
「かわいいねえ、お母さんによく似てる」
「そうかな」
黒川はどこか困ったように答えて、娘に腕を引かれるままテントを離れた。
「ほら、窪田も行ってきなよ」
高松が意味ありげな笑みを浮かべて腕をつかんでくる。
「やめろよ」
窪田は顔をしかめて高松の手を軽く払った。
「なんでよー、つき合ってたんでしょ?」
「いや、昔の話だし」
口ごもるような形になってしまい、窪田は「あっちにも迷感だろ」と語調を強める。高松は首を傾げた。
「あれ、知らない? 旦那さん亡くなったって」
「……そういう問題じゃないよ」
「でも、黒川さんは窪田のこと意識してるみたいだけど?」
え、と声がわずかに上ずる。慌てて「まさか」と意識的に苦笑してみせた。
