夫が出て行ったあと……

 夫が出て行ったあと、ご飯を作り過ぎてしまっていた。

 いや、ご飯を作り過ぎるというより、材料を買い過ぎると言った方が確かかもしれない。スーパーに行くと、まず野菜売り場をのぞく。キャベツ、大根、白菜などの大型野菜が安くなっているとつい買いたくなってしまうのは習慣からなのだろうか、ケチだからなのだろうか、それとも世の常なのか。

 一人だから無駄遣いしないようにしよう、と思いつつ、「こんなに大きくて、きれいな大根が九十八円だなんて」と思わず買ってしまい、最初は煮物とサラダとおろしにして半分くらいは消費できても、そのあとは持て余してしまう、というようなことを重ねた。

 最後には塩と砂糖と酢に昆布を足して、浅漬けにしておいたりしたが、大根半分の漬物ばかりを食べるわけにもいかず、結局捨てた。

 あまった野菜は自分自身の、もてあます時間のようで悲しい。

 野菜だけではない。

 近所のスーパーでは、毎日必ず、パンや麵類などの特売品が店頭に並ぶ。食パンなら百円台、焼きそば麵やうどんは三食入りでやっぱり百円台。

 「こんなの、子どもたちがいた時には一度に二つは買ってたわ……」と思うと何か懐かしさや、焦燥感におそわれてつい、かごに放り込んでしまう。

 そして、パンは数枚食べたところで消費期限が来て冷凍庫に、焼きそば麵も一玉食べただけで冷凍庫に突っ込んでいる。

 気がついたら冷凍庫がいっぱいになってきた。小型冷凍庫の購入も考えたのだが、それを買っても置くところがないし、きっと自分は際限なく食べ物を詰め込んでしまうだろうと思うと、手が出せなかった。

 しかし、のちにその選択を後悔することになる。

#台所のあるところ

定価 1,980円(税込)
文藝春秋
» この書籍を購入する(Amazonへリンク)