灯台の中へ

「それでは、灯台の中をご覧になりますか?」

 星野さんの言葉で我に返った。六十一年生きてきて、初めて灯台の内部に入るのだ。わたしの胸は少年のように高鳴った。

 構造を外から見ればわかるように、灯台の内部は狭い。余分なものや空間をそぎ落とした潔さがそこにはある。

 螺旋階段を昇って最上階へ。そこに鎮座するライトは、案外に小さかった。

「以前はフレネルレンズというレンズを使って光を投射していたのですが、今はLEDです」

 星野さんが、小さなチップのようなものを見せてくれた。切手大の大きさしかないそれが光源だと知らされて、わたしは肝を潰した。

「こんな小さなものが発する光が、数十キロ先まで届くんですか?」

「テクノロジーの進歩は凄いですよね」

 星野さんが満足そうに微笑んだ。

 光源室から外のデッキへ。わたしは高所恐怖症なので、足がすくむ思いだったが、滅多にない機会だからと自分を奮い立たせた。

「天気がよければ立山連峰が綺麗に見えるんですがねえ」

 星野さんが指さす方向には分厚い雲があるだけだった。

「灯台の周りにあるのは桜の木ですよね」

 わたしは訊いた。

「ええ。光を遮蔽するおそれがあるので、普通、灯台の周りには樹木は植えないんですが、この灯台は特別です。満開の時期にここに昇ると、眼下に満開の桜が広がって、それは途轍もなく美しい光景ですよ」

 眼下に広がる満開の桜。死ぬまでに、必ず見なければなるまい。

「そう言えば、地震の後、富山で白エビが獲れなくなったっていうニュースを見た覚えがあるんですが、今はどうなんです?」

 わたしは話題を変えた。

「以前のようには獲れなくなったと聞いています。氷見の寒ブリも、例年、ピーク時には寒ブリ宣言というのが出されるんですが、今年は出てませんね」

 寒ブリ宣言というのは、定置網漁で大ぶりのブリがたくさん獲れるようになると出されるのだそうだ。今年はブリがあまり獲れていない。温暖化のせいか、あるいは地震の影響か。

「ぼくは北海道の出身なんですが、最近は函館でスルメイカが獲れなくなって、代わりにブリが獲れるようになってきているそうです」

「ああ、海水温があがって、以前はこの辺りにいたブリが北上しているのかもしれませんね」

 しばし、温暖化や地震のことを話し、その後で再び下へ移動する。

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