現代によみがえる南蛮バティック天草更紗
安土桃山~江戸時代初期、南蛮船に乗って日本へ渡来した美しい更紗(中近東やインドで使われていた模様布)。その後、技術を身に着けた職人によって製作され庶民にも広がった。南蛮文化が花開いた天草にも、西欧人がもたらした文化と天草の地の文化が融合したような柄の更紗があったという。鎖国時代には、国外へ追放された西欧人と日本人妻子たちが、望郷の念を更紗の裏に模様風に書いた「祈りの更紗」もあった。そんな逸話を持ちながら、復興しては途絶え、復興しては途絶えを繰り返し、昭和半ばに作り手がいなくなってしまった天草更紗。
そんな天草更紗を復刻し、さらに現代風のアレンジも加えたものが、その名も「平成の天草更紗」。その柄には、イチジクや像、南蛮渡来の楽器に天草四郎、ラテン調の花などがあしらわれ、ちょっと日本のものではないような、エキゾチック感が漂っている。
右:制作中の中村さん。「天草の伝統工芸が他と違うのは、資源がないから工夫してきたところよね。伝統を継ぐだけではなくて、柔軟性も必要かな」。
天草ならではの情緒を更紗に吹き込むのは、染元「野のや」の中村いすずさん。もともとは草木染め師だった彼女が、天草更紗の復興に向けて奮闘したのはこの10年のこと。天草更紗の最後の染め師の過去帳や、残っていた端切れの模様、年配者が微かに覚えていた更紗の記憶などを頼りにして、ようやく今の天草更紗が完成した。「一子相伝ではない天草更紗には、きちんとした資料が残されていません。でも、それぞれの時代の染め師たちは、自分が感動した風景や風土を、その時々の流行や風潮にうまくマッチさせ柄に表現してきたのです。私も、自分が感じた“天草”を柄に託して、次世代につないでいきたいと思っています」と中村さん。
平成の天草更紗は、過去のものを参考に、現代らしさも取り入れて創作。天草の花鳥風月を染めた更紗は、築100年の古民家の2階にある工房で作られている。1階は「町屋カフェ」というレトロなカフェギャラリー。畳敷きの上にアンティークの家具が置かれ、ほっこりとした雰囲気の中に、天草更紗でできた小物やアクセサリー、洋服などが販売されている。
カフェは、天草の旬のフルーツや野菜などを使ったメニューが中心。ていねいに手作りされていて、見た目もきれい。お茶やランチに立ち寄るだけでなく、2階の工房で、天草更紗が作られる舞台裏を覗いてみるのも楽しい(見学・体験も可)。じっと眺めていると、歴史ロマンの中に迷い込んでしまったかのような感覚にもなる天草更紗。その独特の世界をたっぷりと感じてみては?
染元 野のや
所在地 熊本県天草市佐伊津町2212-2
電話番号 0969-23-5484
開館時間 11:00~18:00
定休日 木曜
URL http://www.sarasa-nonoya.com/
協力:熊本県天草市、一般社団法人 天草宝島観光協会(天草観光ガイド「島旅」 http://www.t-island.jp/ )
2014.06.28(土)
文=芹澤和美