CVポートの埋め込み手術を受けた日、そのまま3クール目の抗がん剤治療を受けた。それまでは日帰りで受けていたけど、急遽2泊3日で入院することに決めた。それもこれも、ホスピタリティの高さにメロメロになってしまったから。埋め込み手術での看護師さんの対応や先生のテキパキとした仕事ぶり、IVRルームの雰囲気にすっかり魅せられて、「このまま身を委ねたい」と思ったのだ。抗がん剤治療は時間を置いてドンと副作用がやってくるけど、打ったあとも正直しんどい。数時間動かずに、体に薬を入れるというのは、身体にも精神にもかなりのストレスがかかる。

「いまこの瞬間、私の治療のために一心に注がれているんだ…」

 抗がん剤を打って家に帰っても、掃除、洗濯、ワンちゃんの世話など、いろいろとやらなくてはいけないことがある。結局、すべてをこなすことができずに「明日やるか」と考えてしまって、3日くらいかけて終わらせることになる。だったら、いっそのこと2泊3日で入院して、体力を回復することに専念し、シャキッとした状態で帰宅して、家のあれこれをやっつけてしまったほうが、よっぽど効率がいい。

 病室も綺麗だし、11階から18階までが病室なので、窓から見える景色は絶景間違いなし。病衣は着心地やデザインもハイブランドのパジャマ級だし、ベッドのリネンもちゃんとかわいいし、なによりごはんが美味しい。なんだか「こんな贅沢していいんだろうか」という気持ちになって、じんわりと目に涙が浮かんできたくらい。

 ポートを埋め込んだときは、感動のあまり大泣きしてしまって、先生や看護師さんたちを驚かせてしまった。ひたすら私のことを気づかってくれている看護師さん、モニターを凝視して手術に集中する先生、傍目に見ても全幅の信頼を寄せてもいいだろうというオーラを醸し出している医療機器の数々、清潔で静謐なIVRルームーー。

 日本の医療界が綿々と受け継いで発展させてきた技術と知識、人の命を預かる者としての矜持やそうなるまでのたゆまぬ努力などが、「いまこの瞬間、私の治療のために一心に注がれているんだ…」と思った途端にブワワ~と涙が溢れてきて、気づけばウォンウォンと泣いていた。

 渡されたティッシュで涙と鼻水を拭いながら「急にごめんね。泣いちゃって。泣いたのは感動したからなの。先生の仕事にあこがれちゃう。人を助ける仕事って、とてもかっこいい」とヒックヒック言いながらまくし立ててしまった。2泊3日の入院を終えて帰る際にも、感動がぶり返してまた泣いた。自分でもどうかしていると思うけど、それぐらい感謝と感動のサイクル状態にあった。

写真=鈴木七絵/文藝春秋

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2025.07.25(金)
文=平田裕介