最上階の19階にはカフェテリアもあって、食事やお茶ができるし、テイクアウトもできる。しかも19階だから眺望が素晴らしく、晴れた日に見る築地市場や東京スカイツリーには声が出そうになった。ここでお茶を飲み、絶景を見ながら診察を待っていると、自分ががん患者であることを忘れそうになる。

 いまの医療、とくに大きな病院に関しては、こういった部分もふくめて治療の一環として考えているような気がする。治療しなければいけない状態にあるのに、「病院って、なんだか怖い」「治療が痛そう」と、ネガティブなイメージを抱いて、病院に行くのが苦痛になってしまうことがある。そんな思いをすこしでも軽くさせて、「病院に行こう」「治療に向き合おう」という方向に背中を押そうとしてくれている気概をものすごく感じた。

素晴らしき日本の医療ホスピタリティ

 設備や雰囲気の前に、病院のみなさんは素晴らしい方しかいなかった。なにしろ、ホスピタリティがどこまでも徹底している。誰もが患者としっかりコミュニケーションを取ろうとしていて、「とにかく、治せばいいの」という素振りが、どこを探しても見当たらなかった。

「病は気から」って言葉はやっぱり嘘じゃない。病院の雰囲気がいいと、その病院や先生たち、看護師たちの方々に対する信頼感、安心感も増していく。がんになってから1年半が経過しているが、幸いにも再発、転移の兆候はない。治療の賜物なのは承知だが、国立がんセンターが最高だったゆえに、病を招く“気”も出てこなかったんだろう。

 こんなことを話すたびに「それは、あなたが梅宮アンナだから。特別扱いされてるの!」という声が出る。でも、そんなことはけっしてない。先生や看護師さんたちだけでなく、受付の方やカフェの店員さん、守衛さんにいたるまで、ほかの患者さんやその付き添いの家族に親切丁寧な対応をしていた。とくに先生と看護師さんは、一挙手一投足をガン見していたから、胸を張って言える。

 四つ星、五つ星を得ているホテルに泊まったり、飛行機もファーストクラス、ビジネスクラスに乗る機会が多かった私だけど、日本の医療のホスピタリティは、余裕でそれらを超えているんじゃないか。星付きホテルもファーストクラスも、至上の至れり尽くせりだから、なにも考えずに快適に過ごせて、思いっきり旅に集中することができる。同じように、日本の医療サービスもなにも考えずに思いっきり治すことだけに集中できるようになっている。

2025.07.25(金)
文=平田裕介