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野球でたとえるなら、フォークボールのような存在になれたらいいな、と

――ご自身では「ミュージカル俳優としての小池徹平」をどうご覧になっているのでしょうか。

小池 僕はミュージカル俳優だけをやってきたわけではないので、「ミュージカル俳優です」と言い切るのはおこがましいような気持ちが、今でも自分のなかにあります。

 でも、ドラマや映画などでのストレートプレイや、歌手活動なども経験してきた僕だからこそ表現できるキャラクターもあると感じています。それに、勝手なイメージですけれど、ミュージカル俳優には背の高い方が多い印象があって。僕はそれほど身長が高いほうではないので、そこも逆に強みになるんじゃないかと思っています。

 うまく表現できませんが、野球で言うなら変化球タイプというか……。ストレートの速球派が多いなかで、フォークボールのような存在になれたらいいな、と。

――「小池徹平」は本名です。芸名を使い、“ほかの人生”を生きてみたかったと思われたことはありますか?

小池 僕は右も左もわからない15歳の時に雑誌のモデルで芸能界に入ってからずっと本名で活動してきたので、「芸名を使う」ということは考えたこともなかったです。「小池徹平」じゃなかったら今の僕はないでしょうし、そう考えると、「本名を使う」という事務所の方針に感謝しています。

 ただ、結婚して家族ができてからは、「芸名を使っておけばよかったな」と思うこともあります。たとえば、役所や病院などで本名を呼ばれる瞬間は、少し気まずさを感じることもあって。子どもがどう感じているのかな……と考えると、芸名だったらよかったのかも、と迷うこともあります。

 でもその一方で、まわりの方が気を遣ってくださる場面も多くて。そういう温かさに触れると、ありがたいなと感じています。

――「自分の名前で生きられない」Xにとって幸せとは何だと思われますか?

小池 「自分の名前で生きられない=不幸」と考えるのは、Xにはあてはまらない気がします。自分の名前を捨て、孤独に生きる選択をしてでも切り離したい過去があったとすれば、「谷口大祐」という名前を手に入れたことが、Xの人生においては、ある種の救いだったのかもしれません。もちろん、里枝と出会って結婚し、子どもができた時間はXにとって幸せだったのかもしれませんが、幸せの基準はその人本人でなければわからないので、お答えするのは難しいです。

――小池さんがどのようなXを演じられるのか楽しみです。舞台への意気込みもお聞かせください。

小池 現実と幻想が交錯するような、ミュージカルでしか表現できない舞台ができると思っています。曲も、キャスト陣も豪華で、非常に見応えのある作品です。原作をリスペクトしつつ、まったく新しい『ある男』を体験できると思います。

 みなさまのご期待に応えられるよう、プレッシャーを感じながらも、全力で日々精進したいと思っていますので、ぜひ舞台を観に来てください。

【前篇】原作者、平野啓一郎の「楽しみだ」に大プレッシャー! 新ジャンルのミュージカル『ある男』で身元不明の男「X」役に挑む小池徹平の胸の内

小池徹平(Teppei Koike)

1986年1月5日、大阪府出身。2002年にデビューし、ドラマ「ごくせん」、連続テレビ小説「あまちゃん」、映画『ホームレス中学生』など映像作品で活躍。12年からは舞台にも活動の場を広げ、『1789‐バスティーユの恋人たち‐』や『キンキーブーツ』で高い評価を得る。7月~ドラマ「DOPE 麻薬取締役部特捜課」(TBS)に出演中。

『ある男』

音楽:ジェイソン・ハウランド
脚本・演出:瀬戸山美咲
歌詞:高橋知伽江

出演
浦井健治 小池徹平 濱田めぐみ ソニン 上原理生 上川一哉 知念里奈 鹿賀丈史ほか

東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)2025年8月4日(月)~8月17日(日)
広島、愛知、福岡、大阪公演あり
https://horipro-stage.jp/stage/aman2025/

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2025.07.15(火)
文=相澤洋美
写真=平松市聖
ヘアメイク=加藤ゆい(ヘアメイクフリンジ)