本作(全国公開中)はモータースポーツの最高峰F1ドライバーの生き様を描いたエンタテインメント大作だ。

 キモは、F2カーを改造したレプリカを使ったレースシーン。馬力ではF1に劣るとはいえ、最高速度320キロを超えるマシンがデッドヒートを繰り広げる様は凄まじい迫力。ドライバーの視線を捉えるドライバーズ・アイの導入など、近年はオンボードカメラの進化で臨場感が高まる実際のレース中継に対抗し、本作の撮影には『トップガン マーヴェリック』(22年)の飛行シーンで使われたソニー製カメラの進化版を採用。G耐性に加え自由にカメラを振ることも可能になり、運転席から前方を捉えた映像から瞬時にパンしてドライバーの表情を写すなど、ドラマチックな表現でレースシーンを盛り上げた。

ハンドルを握るのはブラッド・ピット本人

 本作のプロデューサーはカーマニアであり、「バッドボーイズ」シリーズや『60セカンズ』(00年)など激しいカーアクションを盛り込んだ作品群で知られるジェリー・ブラッカイマー。30年の時を経てF1に復帰したベテランが若いチームメイトとぶつかりながら栄冠をつかむ展開は、ブラッカイマーが『トップガン』(86年)に続いてトニー・スコット、トム・クルーズと組んだ、若き天才レーサーの成長もの『デイズ・オブ・サンダー』(90年)の逆パターンといえる。ちなみに監督は『マーヴェリック』のジョセフ・コシンスキーである。

 俳優たちを戦闘機に乗せたこだわりのコンビの作品だけに、スピンやクラッシュなど事故シーンを除き、ハンドルを握るのはブラッド・ピットら俳優本人。ピットたちはスポーツカーからF2カーへ徐々にランクを上げながら、数カ月の訓練を積んで撮影に臨んだというから驚きだ。

2025.07.06(日)
文=神武団四郎