不登校問題への関与のねらいは再登校、或いは再就学の実現である。それは、この問題の本質と個々の事例の問題の所在を正しく理解し、手だてを工夫し、手順に従い、知恵と感性をはたらかせ、心して関わればほぼ実現する。この書では、心理療法を学び、また数多くの臨床体験から習得したこの問題の解決のための考え方や具体的な方策、経過、具体的な手法を明らかにする。さらに子どもたちの声も紹介する。加えて、本書の端々に、この問題のさまざま解き方を網羅しておく。参考になれば幸いである。

 子どもたちの自己成長、親や家族の変容、教師らの真摯な学び、心理職などの温かな支援によって、数限りなく再登校、或いは再就学は実現している。それらの経過や手だて、そしてこの問題に取り組む心のあり方を本書の端々で紹介する。参考の用になれば幸いである。

 またこれまで、不登校問題に関わるなかでたくさんのことを学んだ。それらを基に、不登校を生まない子育てや学校教育のあり方、社会一般の人たちへの願いなどの提言も行う。恐縮であるが行政当局への疑問等も付す。さらに、本文中に表現し切れなかった事柄を最後に総括的に述べる。

 この問題の発生抑止と解決のために、ともに行動する人たちが増えることを心から願う。

 不登校の子どもたちに告げる。

 こども園(以下、保育園や幼稚園、認定こども園などの総称の意)で行けなかったら小学校で学ぶ、小学校で行けなかったら中学校で学ぶ、中学校で行けなかったら高等学校で学ぶ、高等学校で行けなかったら大学等で学ぶ。大学院もある。そう思うことは、大切な心得であり覚悟である。

 これまで元不登校の人たちに数多く出会ってきた。二十歳、三十歳を過ぎても中学校卒業では、仕事に恵まれず、たとえ職に就いても、昇給や昇進がままならないという悲哀や嘆きの声をたくさん聴いてきた。結婚のこともである。

 この時代この社会では、中学校卒では、よほどの卓越した芸術的才能、秀でた運動能力、卓越したもの造りの技能、そして賢い商才がない限り、それなりの生計を立て、生き甲斐のある人生を創ることはなかなかに困難である。人生には、何をおいても、高等学校卒業以上の「証書(ライセンス)」が必要である。学校から退き、尻込みし、怖れ、そして拒否する心と態度はどこかに棚上げし、なるべく早く学校に行くのが賢明である。よいことが必ず訪れる。

 なお、子どもの呼び方は、乳児、幼児、児童、生徒、学生とさまざまであるが、本書では、一括りに「子ども」と表現する。教員は「教師」、カウンセラー等は「心理職」とした。

 二〇二五年 五月末日

海野 和夫


「まえがき」より

不登校を克服する(文春新書 1499)

定価 1,210円(税込)
文藝春秋
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2025.07.01(火)