ジャムおじさんとバタコさんは、人間のかたちをしているけれど…
それからもうひとつ言うと、アンパンマンはアニメとしてはひとつの大きな挑戦をしました。普通アニメと言っているのは、動画か漫画映画のことです。
アニメでは、人間よりも動物を動かす方がやさしいと言われています。ディズニーは俳優を使って動画を撮影し、それをアニメ化するという方法をとりました。
人間は人間に演じさせて、背景と動物はアニメにする。それを合成して作った映画が「メアリー・ポピンズ」です。
動物は擬人化してしゃべらせることができます。逆に、人間は漫画化することになります。こうすれば、両者は同じ画面で共演することができるのですね。動物は動きを誇張することで面白くなります。

アンパンマンをアニメ化する時、ぼくはスタッフに言いました。
「ジャムおじさんとバタコさんは、人間のかたちをしているけれど、妖精のような存在です。その他の学校の先生や子どもたちは、みんな擬人化した動物にしてください。そうでないと、この非現実的な話には、不自然なところが出てきます。アンパンマンという架空のバーチャルランドでのみ成立するわけですから、人間らしいものは、できるだけ排除します」
ぼくは、宮崎駿のアニメを尊敬しています。
でも、彼とはまったく別の方向で、アニメを作る上でひとつの革新を試みたいと思いました。それで指を全部省略して、げんこつのかたちにしたのです。
ディズニー映画は指が4本で作られています。指が5本ではなく4本になるだけで、アニメーターはずいぶん楽になります。4本指は静止していると不自然ですが、動いていると見ていても少しも苦になりません。
ぼくのアニメでは、犬や猫の手は、よく見れば指がわかれていますし、人間だって必要な時には、パッと5本の指になりますが、一見げんこつ風です。
こうすると人形化する時も、着ぐるみも、実に作りやすい。しかし、このことに注目する人は、誰もいません。つまり、少しも不自然でないということだと思っています。


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2025.07.02(水)
文=やなせたかし