この記事の連載
こっちのけんと #1
こっちのけんと #2
自分の乗りこなし方を少しずつ覚えていった
22年にデビュー、24年には「はいよろこんで」が大ヒットし、大晦日の紅白歌合戦への初出場も果たしたこっちのけんと。23年9月に双極性障害であることを公表し、現在もその障害とともにアーティスト生活を送っている。だが、明るい表情で自らの過去や現在の精神状態を語る彼からは、その生きづらさを微塵も感じることがなかった。
「いまは躁のタイミングです。テンションが上がりすぎたり、眠れなかったりする状態。こういうときは、躁状態であることを意識して、人前ではなるべく抑えるようにしています。感覚としては、テンションが低いときの自分のモノマネをしているような感じです」
双極性障害であることを知ってから数年間、自分のコントロール法を少しずつ学んでいったという。自ら「めちゃくちゃだった」という“空白の2年間”は、どんな状態だったのだろうか。
「うつになると何もしない、できない。必要なものを手の届く範囲に置いて、ずっとベッドにいてゴロゴロしているだけ。そんな自分、自分の人生に嫌気がさして、死にたくなる。逆に躁になると、僕の場合、ひたすら喋りまくるみたいなことだけならいいんですけど、金を使いまくるんです。ゲームに課金しまくったり、洋服をじゃんじゃん買ったり、フードデリバリーを同時に3軒頼んで、1軒分しか食べれなくてあとは捨てることになったり。それなのに翌日もまた3軒頼んでしまう。そんなことを繰り返しているうちに、3軒頼んじゃう自分がちょっとかわいいなって思えてきたりもしました(笑)」
医師からは「自分が双極性障害であるということを受け入れて理解することが大切」というアドバイスを受けた。
「それまでは暴走する精神状態に自分を乗っ取られて、ウワーッて感じで生きていたんですけど、先生に言われてから自分の日常生活のなかの行動やその前後の徴候などを意識するようにしました。自分のなかで我慢するところと我慢しないところを決めるなど、少しずつ自分の乗りこなし方を覚えていった感じです」
躁状態の時はいくつかの決まりごとがある。
「たとえば、ゲームに課金しないように普段からわざとゲームのことを考える。実際にはプレイしてないんですけど、あのキャラクターがどうなるとかを飽きるほど考えておくんです。あとは夜ひとりで出かけがちなので、靴を隠しておいたり、風呂に入らなかったり。もともときれい好きなので、風呂に入っていない状態では外に出たくないんですよ。それがわかっているから風呂に入らないでおく。夜30分間散歩しようと思って家を出て、朝まで歩き続けるみたいなこともありますから、それくらい対策が必要なんです(笑)」
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こっちのけんと
マルチクリエイター
1996年、大阪府生まれ。大学在学中にアマチュアアカペラ全国大会「A cappella Spirits」で2年連続優勝。口だけで曲を演奏する“1人アカペラシンガー”としてYouTubeで活動後、2022年8月に初の配信シングル「Tiny」をリリース。24年、日本レコード大賞最優秀新人賞を受賞。
『けっかおーらいEP』

TVアニメ『ヴィジランテ-僕のヒーローアカデミア ILLEGALS-』オープニングテーマである表題曲、Eテレ『The Wakey Show』エンディングテーマ「それもいいね」のセルフカバーなど全6曲を収録した、自身初のCD作品。
こっちのけんと ソニー・ミュージックレーベルズ 2,200円 2025年6月18日発売
続きは「CREA」2025年夏号でお読みいただけます。

2025.06.21(土)
文=川上康介
写真=平松市聖
CREA 2025年夏号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。