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趣味は「夢を作ること」

――今回の舞台も人生後半のお話に焦点を当てていると思いますが、人生の後半をどう豊かに過ごすかについて、中井さんご自身が考えていらっしゃることはありますか?

 僕自身、仕事との向き合い方のようなものが少し変わってきました。仕事はやはり“生業”なんです。そこにお金が発生して、生活をするために働くことはもちろん大事なことですが、それよりも大事なことに気づきました。

 小津先生じゃないですが、それこそ、あと何本撮れるか分からない、あと何本自分が出来るか分からない中で、役者としてどれだけ夢を残していけるか、ということに仕事がどんどんシフトしてきているんです。「中井さん、ご趣味はなんですか?」と聞かれたときに、前は一生懸命にゴルフだとか言っていたんですが、今そう聞かれたら「夢を作ること」だと言えるようになりました。

 共感でも憧れでもいい、観てくれている人たちがちょっとでも夢を持ってもらえるものを作っていくことが、僕の仕事と趣味という感じになってきたというか。共存するようになってきました。

――年齢を重ねるとともに、ということですね。

 そうですね。年齢とともに。あと何本夢を作れるか分からないですけど、自分なりの夢をみなさんにお届けしていくのが自分の晩年かなと思います。

――具体的に中井さんがなさりたいことを教えてください!

 僕は映画でデビューしたので、映画で何かを残したいという気持ちが強くあります。今回は舞台で小津先生の世界をやらせていただきますが、映画で小津調の作品を撮りたいという気持ちはあります。

 それは物真似ではなく、もっともっと小津イズムを勉強して、なぜ小津先生はこういう芝居をさせたのだろうという意味を深掘りし、そんな中で、“日本人が作る小津映画”を作っていけたらいいな、と。それが、僕の望みです。

【前篇を読む】中井貴一(63)が挑む名匠・小津安二郎の“粋”な生き方

中井貴一(Kiichi Nakai)

1961年9月18日生まれ、東京都出身。11981年、成蹊大学在学中に映画『連合艦隊』で俳優デビューし、日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。1983年TBS系ドラマ『ふぞろいの林檎たち』や1988年NHK大河ドラマ『武田信玄』への出演で一世を風靡。映画『壬生義士伝』(2003年)で日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞。シリアスな役からコミカルな役柄まで演じこなす幅の広さで着実にキャリアを重ねる。現在舞台のみならず、映画やテレビドラマと八面六臂の活躍を続けている。

パルコ・プロデュース2025
『先生の背中~ある映画監督の幻影的回想録~』

作:鈴木聡
演出:行定勲
出演
中井貴一/芳根京子 柚希礼音 土居志央梨 藤谷理子 久保酎吉 松永玲子 山中崇史
永島敬三 坂本慶介 長友郁真 長村航希 湯川ひな/升毅 キムラ緑子

東京 PARCO劇場 6月8日(日)~6月29日(日)
大阪 森ノ宮ピロティホール 7月5日(土)~7月7日(月)
福岡 J:COM北九州芸術劇場 大ホール 7月11日(金)・12日(土)
熊本 市民会館シアーズホーム夢ホール 7月15日(火)
愛知 東海市芸術劇場大ホール 7月19日(土)・20日(日)
https://stage.parco.jp/program/senseinosenaka/

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2025.06.21(土)
文=前田美保
写真=榎本麻美
ヘアメイク=藤井俊二