絶対『まじめな会社員』の主人公と同じタイプと思われている

――メイクはシーンによって変えていますか?
プライベートでは関係も出来上がっているので、メイクに左右されることはないと思うんです。プライベートでのメイクは趣味程度ですかね。圧は出していかなくても大丈夫。
そして仕事でも会うのは編集者の方なので、ちゃんとした人に見えるメイクで行きますから、圧はかけない方向です。遊びに来ていると思われても良くないと思うので、落ち着いた赤すぎないリップとかオレンジ系のリップにします。アイラインも引かず、眉毛もむしろちゃんと描きます。
初めて会う人には自分の作品から想定されている作家像に寄せるか、ずらすかも考えながらメイクをしています。絶対『まじめな会社員』の主人公と同じタイプと思われているので、最初の頃は白いワンピースとかを着て、「優しそうで、なおかつ自信もありそうな感じ」にしようと思っていました。作家像とギャップがあるほうが本が売れそうって思って(笑)。
他者と程よく距離感をとるためのメイク術が身についた

――冬野さんにとって、メイクをするという行為は社会との関わりにおいて“見せたい自分”を作るツールのひとつという認識でしょうか。
そうだと思います。今のマイブームは“圧”なので、相手に文句を言わせないというか、自分が疲弊しないため、無駄に疲れないためにするもの、と捉えています。他者との間にひとつ“壁”を作って、舐められないというか、バカにされないためというか……。程よく距離感が取れるようなところを狙っています。

――20代は会社員として抑圧された自分を解放するための自己表現のように伺えましたが、そこから変化してきたんですね。
多分仕事とは関係なく、20代の頃から反転したのだと思うんです。20代は他人から意見を言われやすいし、若いというだけでアドバイスをされやすい。それを10年くらい経験して、30代になると「あ、アドバイスは受けなくていい、されなくていいんだ」と気づいた。人からの意見は自分が聞きたいときに聞けばいいことで、そう思ってからは「文句を言われたくない」という方向へシフトしたのだと思います。
20代で「意見の言われやすさ」「話の通じそうな感じ」からくる弊害を学んだので、今は話の通じなさそうな人になることを目指すという感覚です。
――そう考えると、メイクができることの振れ幅は想像よりも広いように感じます。
はい。私にとってメイクは“楽しい”より“面白い”のかもしれないですね。
――これからチャレンジしたいメイクはありますか?
もともとはカラーマスカラとかが好きなので、今のメイクに飽きたら、またチークとカラーマスカラとファンデーションだけ、みたいな感じになりそうな気がします。眉毛を薄く描いて、まつ毛はピンクにしつつ、やっぱり“圧”を出していく方向はキープしていくと思います。
昔は「化粧をしたのに可愛くならない」と落ち込んだりしていましたが、今欲しいのは貫禄。可愛いにはもうならないし、そもそも求めないので落ち込まないんです。圧のある方向を作るために眉毛なんかを強めに描けば貫禄のある感じにも仕上がるので、自分のなかの100点に到達するのが早い。
ただ、年齢を意識したメイクは、それはそれで面白いと思うので、ベースメイクなんかは年相応みたいなところを狙っていきたいですね。さらに年を重ねれば嫌でも貫禄が出そうだから、もしかしたら圧を追求しながら可愛いメイクもできるのかも……と思っています(笑)。
≫はじめから読む:「なんでブスに産んだんだ! と親を問い詰めた」漫画家・冬野梅子とメイクの出会い

冬野梅子(ふゆの・うめこ)
2019年『マッチングアプリで会った人だろ!』で 「清野とおるエッセイ漫画大賞」期待賞を受賞。その後、『普通の人でいいのに!』(モーニング月例賞2020年5月期奨励賞受賞作)がTwitterを中心に話題に。「CREA」2022年秋号で『まじめな会社員』(講談社)が夜ふかしマンガ大賞1位を受賞。ほか著作にエッセイ「東北っぽいね」、『スルーロマンス』など。
X:@umek3o
待望の新連載『復讐が足りない』がコミックDAYSにて8/5(火)スタート!
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2025.06.17(火)
文=前田美保
撮影=榎本麻美、末永裕樹
マンガ=冬野梅子